米国のことはともかく、日本で研究者が早々に現場を離れなくてはならない現実については、私も何となく疑問に思っていた。それを再認識したのは、ノーベル賞の受賞者発表のときだった。私が読んだニュースの一部を書き出してみると、こうである。

 スウェーデン王立科学アカデミーは7日、2008年のノーベル物理学賞を高エネルギー加速器研究機構の小林誠名誉教授(64)と益川敏英京都大名誉教授(68)=京都産業大教授=、米シカゴ大の南部陽一郎(87)の3氏に授与すると発表した。

 テレビでお姿をみてお話をうかがう限り実にお元気で、最前線でバリバリ研究されていてもちっとも不思議ではない。でも、肩書きをみると「名誉教授」である。ちょっとさびしい。ご当人が望まれていることのかもしれないし、実際には最前線でバリバリ研究をされているのかも知れないし、まあ、大きな御世話ではあるのだが。

定年までも働けない

 もちろん、大学の先生に限ったことではない。企業の多くが60歳とか65歳とかの定年を設けている。けれど、2006年に電通が実施した調査では、男性の77%が定年後も組織で働くことを望んでおり、そのうちの75%は定年前に働いていた企業で勤務することを希望している。そりゃそうだろう。昔は60歳といえば老人だったのかもしれないが、栄養事情がいいのか医療やアンチエージングの技術進歩の賜物なのか知らないが、今の60歳の方々は、びっくりするくらい若々しくて元気だったりする。とても「年寄りでもう働けません」という風には見えない。

 先日のコラムで藤堂さんが書いていた水野博之氏に至っては、もうすぐ80歳を迎えられようかというのに、いまだに大学で教鞭をとり、複数の企業で取締役に名を連ね、さらには複数の組織に関与し顧問などの職に就かれている。ときどきお食事などをご一緒させていただくと、今も昔と変わらず、とてもそのままは記事では書けないような生々しい最新情報ウラ情報を盛り込んだ話題をポンポンと繰り出される。まさしく現役なのである。60歳を定年とすれば、それから20年もそんな八面六臂の活躍を続けてこられたことになる。それで、年収は合計すれば松下電器産業の副社長時代よりもよほどいいらしく、「もっとはように知っとったらなぁと思いますわ。残念やなぁ。知っとったらもっとはように(松下電器を)辞めとったのに」などとおっしゃる。

 けれども、誰でも水野さんのようになれるわけではない。このご時世、もっと働きたいという意欲があり若い人に負けない知識と経験があっても、定年を過ぎて働き口を見つけることは、そう簡単なことではないだろう。