使ってあげなきゃかわいそう

 危うくまたサライ系に脱線しそうになったが、語りたいのはウンチクではなくご贔屓の話である。この「一度馴染みになったら長いお付き合いをする」という性向は、個人だけでなく企業間でもそうだということを、以前このコラムで取り上げさせていただいた。その中にも出てくる、京都でコンサルティング業を長年営み『ザ・京都商法―日本的経営の元祖』の著書もある南村与士重氏は、そのことを何度も言っておられた。

 せっかくコンサルティングをして、「仕入れをここにしたら2割はコストが削減できる。自社生産にすれば3割も」とかアドバイスしても、「そりゃええわ」「おおきに」とか言うだけで、ちっとも変えない。で、しばらくして「なぜ変えないんですか」と聞くと「いや、父の代からあそこの仕入れやし」とか、理由にならない理由を持ち出すのである。「やりにくい会社やなぁ」とか最初は思っていたが、同じような話をするとどこもそう。そのうち「ああ、誰も変える気がないんだ」と気付いたのだという。

 中抜け、つまり流通パスの簡素化がビジネスの常道になっても、それすら変えない。以前に京焼の窯元で聞いた話だが、そこも直売はしない。必ず卸売、小売の業者さんを通す。直売の方が窯元の利益は大きくなるし、お客さんも少しでも安くなれば喜ぶのではと思うのだが。その理由をうかがってみると、ものを作っているところにお客さんが直接買い付けに行くというのは「行儀の悪いこと」なので、してはならないのだという。

 こんな話も聞いたことがある。ある会社は以前から、地元の金融機関に融資を受けてきた。そのおかげで経営状態は良好で、まったく借金をする必要もなくなった。しかし、社長は依然として融資を受け続けている。地方出身者でこの会社に就職した経理担当者が「なぜ不要な融資を受けてムダな支出を増やすのか」と聞いたところ、その社長は「銀行さんはおカネを貸すのが商売。せっかく商売してはるのに借りてあげんとかわいそうやろ」と言われ、愕然としたらしい。

 変えないだけでなく、むやみに手を広げようともしない。これも前出のコラムで書かせていただいたが、「今以上に商売を拡大してはいけない」という家訓をもつ商家すらあるのである。こうしたマインドが事業者の側にあり、それを支持する顧客がいる。だから、昔ながらの専業を守り、業種や規模の拡大を目指さない。