こうなるとどちらも後に引けない(図2)。優秀な光ディスク技術者が次々と戦列に投入され,徹夜続きの「猛開発」を敢行。各社の首脳陣はお忍びで世界を飛び回り,自陣営の勢力拡大を図った。コンテンツ企業は両陣営を手玉に取って自身に有利な条件を無理やり引き出す。まさに生き馬の目を抜く様相を呈していた。
スピードが一番と思ったが…
DVDに関する特集記事の取材を進めていた編集部内でも意見が割れた。「規格分裂に伴う当面の痛みは仕方ない。両陣営が市場で戦い,優れたものが残るのだ」「いや,分裂によって消費者は大いに混乱する。業界のためにもならない」――。筆者は統一希望派だったのだが,そう考える理由はほかのメンバーと少し違った。普及のスピードこそ大事と信じていたのだ。
当時から米国では,ネットワークで映像配信を試みるベンチャー企業が多かった。さらにHDDの容量が急増し,映画を収められる水準に達した。デジタル記録のVTRも頑張っていた。つまり,光ディスクではない競争相手がウヨウヨし始めていた。似たもの同士のMMCDとSDは,力を合わせてスピーディーに普及を進めないと,いいモノを作っても負けると思った。勝手に心配していたら,1995年9月15日,両陣営が規格統一の方針を発表した。正直,これでうまくいくとホッとした。そして同年12月には,DVDの統一基本仕様が正式に公表された注1)。
注1) もっとも,その後も不正コピー防止技術の仕様をめぐる紛糾が起こり,特許プールも分裂,記録型DVDの規格が分裂と,さまざまな事件が続いて心配の種は尽きなかったのだが。
結果的にはHDDへの映像記録もネット配信も,本格化するにはそれから10年の歳月が必要だった。当時の筆者の考えは明らかにタイミングを外していた。しかし,これから本格的にスタートする次世代DVDはネット配信やHDDなどともろに競合し,同じ土俵で勝負せねばならない。
今回は前回と違い,業界は分裂の道を選んだ。周囲の条件もDVDのときとは変わっている。必ずしも分裂がマイナスではないと思うが,厳しいことは確かだ。数年後,良い結果が出ていることを祈っている。
光ディスクの現在
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