こうした中で,初めて蓄積プログラム方式を取り入れたMOS LSIマイクロプロセサ「4004」(1971年,pMOS,10μm,2300トランジスタ,108kHz)が開発された。Intel社への発注者(電卓メーカーのビジコン)側から4004の開発に携わった嶋正利氏が,経緯を詳細に語っている2)

 これをIntel社が同年11月に一般販売し,蓄積プログラム方式によるLSI化の道を示したことの意味は大きい。LSI化に取り組む電子機器設計者の大きな関心を集め,各種の電子機器に応用され,また,「8080」(1974年,nMOS,6μm,6000トランジスタ,2MHz)など,第2世代マイクロプロセサの登場を促した。

群雄割拠の中で基礎が固まる

 「第2世代の展開は急激なもので(中略)第2世代が開かれて1年半を経たこの時点(1975年5月)で,第2世代マイクロコンピュータのアーキテクチャは,ほぼ出そろった感がある。」1)

 米ZiLOG社の「Z80」(1976年)を含む第2世代マイクロプロセサ(1974~77年)の激烈な開発競争(図1)の中で,「マイクロコンピュータ時代」の基礎が確立され,同時に,蓄積プログラム方式/組み込みコントローラ・チップとしてのマイクロコンピュータ時代が開かれた。これが自動車/情報家電分野など,今日の組み込みシステムの発展へと繋がっている。

 一方,コンピュータ設計者が関心を持ち始めたのはこの第2世代の広がりを受けてであり,今日のパソコン,ワークステーションにつながる「マイクロ“コンピュータ”時代」の幕開けは16ビット・マイクロプロセサ「8086」(1978年,HMOS,3μm,2万9000トランジスタ,10MHz)の登場からといえる。この意味で,第1・第2世代を合わせた1977年までをマイクロコンピュータ発展の第1期(黎明期),1978年からを第2期(コンピュータとしての発展期)ととらえる2)のは,その後の発展・展開を踏まえると妥当である。

 8080マイクロプロセサを使用したマイコンキット「Altair」(1975年),NEC の「TK-80」(1976年),米MOS Technology社の「6502」を用いたパソコン「Apple II」(1977年)などの黎明期を経て,「8088」(8086系)搭載の「IBM PC」登場(1981年)によって,本格的なパソコン時代に突入したことは周知の通りである注1)

注1) マイクロプロセサは16ビットから,32ビット(「i80386」,1985年,CMOS,1.5μm,27万5000トランジスタ,33MHz),64ビット(「Itanium」,2001年,CMOS,0.18μm,2500万トランジスタ,800MHz)へと発展(Intel社の例),デスクトップ・パソコンだけでなく,ワークステーション/サーバー分野へも進出し,今日に至っている。なお,半導体技術の急速・持続的な発展をあらためて認識していただくため,Intel社のマイクロプロセサ名の横には,販売開始年,半導体プロセス,微細加工線幅,集積トランジスタ数,動作周波数を記した。これに対応してアーキテクチャ,OS/ソフトウエアの発展があったが本稿では割愛した。

 Intel社は1968年,米Microsoft社は1975年に設立されたベンチャー企業であった。4004登場時,今日に至る発展・展開を予想した者がいたであろうか。撤退した企業のことも含め感慨深いものがある。

松崎 稔
参考文献
1) 松崎,「第2世代マイクロコンピュータを総ざらいする」,『日経エレクトロニクス』,1975年5月19日号,no.108,pp.48-75.
2) 嶋,「マイクロプロセッサの誕生,発展,未来」,http://v-t.jp/premier/attached/1108360800_atfirst.pdf,2005年1月.