承前

国際競争力の起源を求めて


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写真上は、ヘンリー8世が創設したトリニティ・カレッジの遠景。森はそのフェローズ・ガーデン。森のすぐ手前の建物は、ニュートンが音速を測定したレン図書館(写真下)。
写真上は、ヘンリー8世が創設したトリニティ・カレッジの遠景。森はそのフェローズ・ガーデン。森のすぐ手前の建物は、ニュートンが音速を測定したレン図書館(写真下)。 (画像のクリックで拡大)

 薬師寺泰蔵は『テクノヘゲモニー』のなかで、「ある特定の国だけが突然かつ急激に国際舞台に台頭する鍵は、『技術の模倣+アルファ』である」と主張し、この「技術の模倣+アルファ」を、エミュレーションと呼んだ。

 ここで問題になるのは、「+アルファ」とは何かだ。それは「競争」と「外部技術」であると彼はいう。すなわち、単なる模倣ではなく、競争環境下で外から他の技術を連結させたり融合させたりすることだ。

 たとえば、白熱電灯においては真空ポンプこそが外部技術だった。19世紀初頭に、英国のハンフリー・デーヴィが大気中のアーク放電による電灯を発明したあと、彼は炭素棒に電流を流すことで白熱灯を発明した。しかし結局は真空ポンプによって真空を生成させ、それに基づいてもっとも耐久性の高いフィラメントにたどりついたエジソン、つまり米国GE社が、先行する英国スワン社を追い越した。

 さらに、「いったん革新技術を獲得した企業は、市場独占することだけを考える傾向にあり、競争的模倣を許さない」ので、「競争」と「外部技術」という2つの「+アルファ」を国家が獲得するには、「公共的な権力でもって非独占の環境を作り出す必要がある」と、彼は説く。けだし慧眼である。

 国際競争力の起源としての彼のこの「エミュレーション」説は高い説得力を持つものの、しかし一般に、技術は常に外部技術を取り入れながら発展していくものだから、どのような「エミュレーション」が抜群の競争力をもつかが、導かれていない。そこで、彼のいう「エミュレーション」がどのような性質を持つとき、他の追随を許さなくなるのか、そしてそのような抜群の国際競争力を得るには、国家は何をもっとも支援すればよいのかを、今から論じてみたい。そのためには、「人間の知的営為とは何か」にまで立ち返って、彼のいう「エミュレーション」の生成プロセスを調べる必要がある。