海外の展示会に参加すると,まともな食事をとれないことが多い。今回のMWC 2008もそう。( Mobile World Congress 2008 報道特設サイト)。朝食代わりにお菓子を口にし,昼は味気ないパンを食べる。夜はホテルそばのスーパーで買った生ハムをおかずにこれまたパンをかじる。しかも毎日。ひどい時には3食お菓子という日もあった。
理由ははっきりしている。見たい展示物が多いにも関わらず,時間はあまりに短いからだ。それでも,ニュースを毎日報道したい。そうなると食事や睡眠の時間を削るしかない。
こんな生活を続けていると栄養不足になる。その代償として口の中は口内炎でいっぱいだ。取材で飛び回りWeb記事を夢中で書き続ける。気がつけば最終日の2月14日。日本ではバレンタインデーだが,ここはバルセロナ。そんなの関係ない。お構いなしに仕事を続けるがやはり腹は減る。
「やっぱり昼食にするか・・・」。といっても,会場内の売店でパサついたサンドイッチを食べるのが関の山だ。売店に行き,店内の棚に向かう。パック寿司が妙に気になる。前々からそこにあると知っていたが,どうせ海外製の寿司。食べる前から味は容易に想像がつく。今まで目にもくれなかったが,さすがにパン食は飽きた。思わずパック寿司に手を伸ばす。
「はっ?21ユーロ?
3000円以上じゃないかっ!」
思わず叫びそうになったが,ぐっとこらえる。日本のスーパーであれば,1つ500円ほどのパック寿司にしか見えないだろう。目の錯覚ではないかと再び棚にある値札に目をやる。間違いない。やはり価格は21ユーロだ。腰が引けてきた。ここはサンドイッチにするか・・・。
と,ふとこう思い始めた。
「もしかしたら相当うまいんじゃないのか」
数年前,ニューヨークの店で食べたきつねうどんが非常にうまかった覚えがある。価格は非常に高かったが,日本食が恋しくなって思わず注文したのだ。この選択は正解だった。正直言ってそのとき食べたうどんは,今まで食べたうどんよりもうまかったのだ。
そんな記憶がよみがえり,購入することにした。何しろ土産話になるし。今なら独身で可処分所得も多いし。
サーモン,えび,カニかま
“バルセロナで巡り会った高価な寿司”。NE分解班の一員である筆者にとっては,格好の品を手に入れたことになる。売店には小さいながら買ったものを食べられるスペースがある。そこに座るとさっそくパック寿司の撮影に取り掛かる。周囲から白い目で見られるかと心配したが,どうやら皆さん会話に夢中でこちらに全く関心がない。心置きなくパック寿司の分解に取り掛かれる。
一見すると普通のパック寿司。3000円もするのだから何かが違うはずと見つめるがやはり単なるパック寿司。ただ見ているだけだと買ったことを後悔しそうになるので,パック寿司の分解に早速着手。まずプラスチック製ふたを外して匂いをかぐ。あまりしない・・・。左側にあるのは握りずしと巻物の集まり。入っているのは,握り寿司はサーモン2貫とえび2貫。巻物は,サーモンらしきものが4巻と,カニを模したカニかまぼこらしきものが4巻の合計8巻である。つまり寿司は12個入っていることになる。うーん1個あたり約250円か。
続いてパック内部右側に目をやると,醤油やわさびを納めたパック,醤油を入れるケース,申し訳程度に入っているガリが飛び込んできた。醤油やわさびのパックにはいろんな文字が飛び交っている。どこ製のものか。食の安全が騒がれている中,少々不安だ。とはいえ腹は減っている。最初の一つとしてサーモンの握りずしを手に取る。感触はちょっとパサつく程度か。360度回して観察。半分を口に入れる。
「むっ,硬いな」
シャリには芯が残っていた。まるでパエリア。味は普通だが,新しい食感だ。久しぶりの米に嬉しくなってしまった。冷静な分解もここまで夢中で食べる。5分ほどでパックは空。かくしてMWC最終日の昼食はあっという間に終わった。
席から立ち,後ろを振り返るとなんと同志が。インド人らしき男性がパック寿司を食べている。なんだか嬉しい。ちょっぴり幸せな気分で店を後にした。ここで一句,
バルセロナ 出会ったお寿司は しん食感
なお,分解の続報は動画でご紹介・・・する予定はない。
(Mobile World Congress 2008に関するレポート記事を,日経エレクトロニクス3月10日号に掲載します)