日経ものづくりの3月号の特集「できる中小企業 苦悩力が生むR&D」の取材チームに参加し,研究開発に熱心な中小企業の社長さんや識者の方々を取材した。この特集では,中小企業は厳しい環境の中で苦悩しながらも,長期間にわたって研究開発を続けられるなど,大企業よりもむしろ研究開発に向いているのではないか,といったことをケーススタディー中心に浮き彫りにしている。

 その内容についてはできれば本誌をお読みいただくとして,実は取材をしていて,ある疑問が頭をもたげた。そもそも,「中小企業」って何だろうか,ということだ。法律によると,製造業における中小企業の定義は,資本金が3億円以下で従業員数が300人以下となっているようだが,そうした定量的な線引きではなく,「中小企業」を「中小企業」たらしめている特徴があるはずだと思ったのである。本稿ではそれを考えてみたい。

中小企業とは「ニッチにこだわる」存在である

 まず思ったのは,取材をさせていただいた多くの中小企業が,「ニッチで生きる」ということを語っていたことである。もちろん,大企業の中にもニッチを目指しているところはあるが,中小企業の方が,ニッチ戦略との相性はいいようだ。

 会社の規模と会社が扱う事業の規模の間には相関があると考えれば,中小企業の扱う事業規模は,必然的にニッチとなる。中小企業とはいっても成長して事業規模が大きくなるに伴い,ニッチ戦略はとりにくくなるが,それでも「ニッチ」にこだわるところに,中小企業らしさが表れているように思った。

 例えば,特集取材の一環で,ある中堅規模の電子材料メーカーを取材した。その会社は,60年ほど前に創業し,少しずつ大きくなって今は従業員数が400人を超える企業に成長したが,先代社長の時代から「マスは狙わずにニッチで生きる」という方針を貫いているという。2代目の現社長は,そうは言っても会社の規模が大きくなるにともなって,「ニッチ」のレベルが変わってきたのだとして,次のように語った。

「一商品で年商数千万円もあれば十分といった感じだったのが,だんだん会社としてのガタイが大きくなってくると,ニッチとは言ってももう少し大きな分野を狙うようになってきます。そうなると,それまでの小さな市場では経験しなかったような競合相手に遭遇するようになります。小さな池では競争もなくのんびり暮らしていたのが,少し大きな湖に出たとたん敵がウヨウヨいる,といった感じでしょうか。そうなると敵に勝つ戦略が必要になる。ウチのような中小企業でもR&Dに力を入れているのもその一つです」

 またこの社長が話したことで面白いと思ったのは,「なんでも取り扱う総合デパートにはなりたくない」と言ったことである。この会社が扱う分野はそれほど大きなものではないが,顧客が求めることをすべてワンストップ・ソリューションで応えようとは思っていない。

 このことから,成長とともに資金力や投資力に余裕が出てきたときに,「総合デパート」を目指さずに,自らの得意技をさらに磨きニッチを深耕するためにその資金を利用しようとするのが「中小企業」としての姿勢ではないかと思った。

中小企業とは「連携」する存在である