【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

「研究開発(R&D)はリソースが潤沢な大企業の方がやりやすいという時代は終わった」─。製造業のR&Dの実態に詳しい専門家は,こう言ってはばからない。R&Dの担い手が,大手から中小企業に移行し始めているというのだ。その背景に何があるのか。大企業は,下請けを上手に使って飛躍的に成長してきた。実はその間,中小企業は大企業の厳しい要望に応えながら,ひたすら鍛錬を積んでいたのだ。苦悩することで生まれるR&D。その実情に迫る。 (池松由香,荻原博之,藤堂安人)

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 1980年代以降,日本のものづくりの軸足は「高い生産性と品質」から「独創性の高い技術力」に変わってきた。中国や韓国といったアジア諸国の台頭で,生産力と品質力だけでは立ち向かえなくなってきたからだ。
 それを裏付けるデータが図1である。国内総生産(GDP)に占める研究費の割合を世界主要国と比べると,2005年度時点で日本は3.55%でトップ。韓国の2.99%や中国の1.34%を上回っている。
 高い技術力で国際競争力を高めようとしている日本。その技術力を支える企業に今,異変が起きている。研究開発(R&D)の「主役」が大企業から中小企業に移り変わろうとしているのだ。「中小企業の独自技術を買い付けに来る大企業が増えている」(早稲田大学大学院政治学研究科客員教授の西村吉雄氏)。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 山形新幹線山形駅から車で15分ほどのところに山形市鋳物町がある。1970年代半ばに公害/騒音問題の解決や生産性の向上などを目指し,山形市内に散在していた鋳物メーカーが集結して工業団地をつくったことからその名が付いた。当時,鋳物メーカーは15社あったが,今では1/3のわずか5社が残るだけだ。
 鋳物メーカーに吹きすさぶ風が冷たく厳しいのは,ここ山形だけの話ではなく,日本全国に及ぶ。鋳物の取引価格が1kg当たり100円,200円と安いことから,特に中国が低コストの労働力を武器に台頭してきた反動で,日本の鋳物メーカーは次第に苦境に追い込まれていった。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 大阪市東成区の閑静な住宅街に,トヨタ自動車もその技術力を認めるめっき工場がある。電子部品の金属めっき加工や電線などに使われる銅線の伸線加工などを手掛けるFCMだ。トヨタ自動車はここで, 「プリウス」のパワー・コントロール・ユニットに使用する部品のめっき加工を施している。
 従業員数232人の中小企業ながら,大手メーカーから受注できた理由は一つ。他社にはない優れた技術を持つからだ。それは中小企業ならではの小回りの利く「行動力」から生まれた。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 自動車の変速機用のギアは一般に切削加工で造られるが,それを冷間鍛造で成形して一躍注目を浴 びた中小企業がある。クリアテックだ。
 変速機用のギアは高負荷に耐えるヘリカルギアで,歯先や歯面には円滑なかみ合いを実現するためにわずかな膨らみ(クラウニング)を付ける必要がある。精度や表面性状の点で切削が当たり前とされてきたが,鍛造で製造できればコストダウンが可能になる。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 「話が来たときに『やれます』とすぐに返事をして,受注に成功しました。本当のことをいうと,その時にはまだ技術的に『やれる』という確証はなかったんですけどね」。
 こんな裏話を打ち明けるのは,自動車部品や半導体関連部品,電子部品などの表面処理加工を手掛けるケディカ(本社仙台市)の代表取締役社長,三浦修市氏だ。同氏が言う「話」とは,バスダクトと呼ぶ,ケーブル配線に代わる電力幹線システムに関して頼まれた案件だった。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)

 

【特集】できる中小企業 苦悩力が生むR&D

 ナミックス社長の小田嶋寿信氏は,研究開発の方針を明快に語る。「オンリーワン,ナンバーワンになること。これが大切だ。ナミックスにしかできないことをやる。大手などの他社がなかなかまねできない技術を,できる限り多く持ちたい。そのために,中小企業としては分不相応なほど研究開発には投資しているつもりだ」─。
 同社は電子部品向けの絶縁材料や導電ペーストなどを広く手掛けているが,決して「デパート」ではない。「よく顧客から,なぜこの材料はやっているのに,こっちはやっていないの?と聞かれるが,話は簡単だ。オンリーワンでないものはやらない。オンリーワンでなくなったら撤退するだけだ」と小田嶋氏は言い切る。(以下,「日経ものづくり」2008年3月号に掲載)