東芝がHD DVD事業からの撤退を発表したのは,今後の市場の趨勢を決定づけたとされる米Warner社の発表から,わずか1カ月半後。判断が早かったため,「それほど次世代DVDがひろまっていない状況なので,被害が最小限にとどまった」(コンサルティング,技術者兼管理者,40歳代)とみなされたようだ。加えて,日本企業は迅速な経営判断が不得手との意識が強いことも,評価を高めた一因とみられる。「もっと早い決断に越したことはないでしょうが,他の企業ならば決断の時期がもっと先へ行ったのではと思います」(コンピュータ/システム,技術者兼管理者,50歳代)。

 アンケートの問いにあった「(東芝は)もっと早く決断すべきだった」という選択肢に対しては,事業に踏み切ったことには合理性があり,事業を始めた前提では現時点が決断の好機だったとの声があがった。「結果論で言えば,もっと早く,あるいは最初から統一規格にまとめるべき,との意見もあろうが,それは理想であり結果論。企業活動,経営,技術革新,いろんなファクターを総合すれば,それぞれに良いところもあれば悪いところもある。結果が出た後からなら誰でも何でも言える」(コンピュータ/通信端末/民生機器,技術戦略企画,50歳代),「今から振り返れば,もっと早くに,と言いたい気持ちは当然ありますが,ビジネスに臨む者として,簡単に諦める姿勢が論外なのも理解できます。既にビジネスに踏み込んでしまった事を前提に語るなら,ベストのタイミングだったと思います」(FPD/民生機器,30歳代)。

最初から負けは見えていた?

 一方で,「もっと早く判断すべきだった」とする回答者の間では,事業化する前から負ける可能性が高かったとする意見が大勢を占めた。「HD DVDは,規格が提示された当初から『負けない』規格だったかもしれないが,『勝てない』規格であることは明らかだったと思っている。東芝は,ワーナーショックが予想外だったので撤退すると言っているが,ワーナーがHDについたところで,市場が2分して泥仕合になるだけで,負けないかもしれないけど勝てる見込みがなかったはず」(その他の製品/サービス,技術者,30歳代)。

 「勝てない」理由として,多くの回答者が指摘したのは二つの理由である。一つはHD DVD規格に賛同する企業が少なく,民生機器大手では事実上東芝一社だったこと。「大手家電メーカー,ハリウッドのコンテンツホルダーの過半数が当初からBlu-ray Disc Associationに属していた『多勢に無勢』の状況で,HD DVD事業を行うこと自体間違っていたと思う」(ソフトウエア,技術者,20歳代),「民生機器の製造メーカーが他になく(他にもあったがメジャーではない,一般ユーザーが知らない),一人で息巻いていたのが敗因」(自動車,技術者,30歳代),「一社でどんなにがんばってもじり貧は目に見えていた」(LSI/コンピュータ/ソフトウエア/民生機器,技術者兼管理者,40歳代)。