我が国は自他共に認めるロボット開発大国です。経済産業省がまとめた「平成18年度特許出願動向調査結果」によると、日本国内はもちろんですが、米国特許庁へのロボット関連特許出願件数でも日本勢が席巻しています。ちなみにトップはソニーで第2位がホンダとワンツーフィニッシュ。同様に欧州特許庁への件数でも第1位はファナック。ソニーとホンダがそれに続きメダル独占状態です。ここで、ロボットというとホンダの「ASIMO」のような2足歩行タイプを想起しますが、売上高で見ると工場における生産ライン用の多軸ロボットが主体となっています。多軸ロボの世界市場でも安川電機、ファナック、川崎重工業の3社で半分以上の売り上げを占めています。

 なぜこんなに日本のロボット産業は活発なのか---。理由として、文化的背景にひもづける話をよく見聞きします。森羅万象のものに魂が宿るという日本的な精霊信仰の世界観が有利に働いているという説です。確かに、工場のロボットに名前を付けたり愛称で呼んだりしますし、アニメの隆盛も擬人化文化が背景にあるように思います。ロボットと共生する時代がやってくる、と言うと日本では「いつかそういう時代も来るんですかねえ」と、それほど違和感なく話は進みますが、あちらでは「ちょっと待った」となることが多いようです。

 特に人型をした奴が近所をスタスタ歩き回っている図というのは、神様のお作りになった世界をいじる風に思えて抵抗があるようです。SF映画でも「ターミネーター」や「アイ,ロボット」などのように、人類の敵であるか、またはつらい使役を担う存在として描かれるケースが多いようですし。つまり、鉄腕アトムやドラえもんのようにあっさり人工知能と打ち解けて、共に笑い、共に泣くという姿は日本発で培われた世界観のようなのです。

 鉄腕アトムの存在が日本のロボット工学者の育成に大きく寄与したと指摘する人もいます。1960年代からの高度成長期に、主題歌にもある「ラララ科学の子~♪」というフレーズは私たち中年の世代に大きな影響を与えました。「未来には心優しいロボたちと一緒に暮らすんだ」と自然に思っていたちびっ子たちは、現在、企業の中核を担う40代なかばの世代。そのアトムがアニメ化された1963年から遅れること5年、1968年に妖怪界のプリンス「ゲゲゲの鬼太郎」がテレビ登場しています。祝福された科学の子であるアトムに比べると地味な存在でしたが、その後も長い人気を保っています。

 アトムはテレビ・アニメとして1980年と2003年の2回、リバイバルで制作され初回と合わせると3回、新番組として放送されました。これに対して、鬼太郎は1971年、1985年、1996年、そして2007年の第5回と、ほぼ10年おきに確実に復活し、どの年齢層にも満遍なく浸透しています。さすが妖怪、しぶとく何度も蘇ってきます。そして今静かなる妖怪ブームが来ています。原作者である水木しげるさんの出身地、鳥取県の境港市は妖怪を集めた「水木しげるロード」を観光資源の目玉としていますが、毎年右肩上がりの活況で、2007年11月には年間ビジターがついに140万人を突破しました。90店舗から成る800メートルほどの商店街に、140万人です。一時的なブームではなく、10年ほど前に同ロードを整備して以来、毎年着実に集客数を増やしています。

 昨今の妖怪ブームの原因分析はさておいて、アトムも鬼太郎も、人ではない空想上の知的な存在という意味では同じです。今回のコラムでは、このSF界の両雄の意味するところを分析し、今後のものづくりとの関係性を検証していきたいと思います。

共生への思い

 和風に妖怪やお化けというと、気味悪い存在ではあるものの、絶対悪という響きはありません。人を驚かすようないたずらをしたり、悪いことをした人を懲らしめたりします。深刻でネクラ系の幽霊でも、現世での私怨をはらすべくさまよい歩く程度で、社会的脅威といったスケールの存在ではありません。一方で西洋風な悪魔というカテゴリーの連中は、「ゴーストバスターズ」みたいにいたずらで収まるキャラもいますが、多くの場合、とても邪悪な野望を秘めています。最終目標はこの世の転覆、神の治める世界をひっくり返して悪の支配する世界にしようとします。人類を征服して奴隷化しようとするなど、ホラー映画でも最後は大変な騒ぎとなります。

 同じホラーでも、日本の映画とあちらの映画では「ゴール・イメージ」の…(次のページへ