日本の製造業は「垂直統合型の組織を持ち,部品から完成品にいたる一連の研究・開発や設計・製造を各要素を擦り合わせながらクローズドに進める組織能力を培ってきた」といわれる。擦り合わせが重要な意味を持つ製品(インテグラル型)では,この垂直統合型の組織能力によって高い競争力を発揮してきた。しかし近年,最初はインテグラル型でも次第に標準化された部品を組み合わせればつくれるモジュラー型に移行し,水平分業化が起こって製品が急速にコモディティー化するという現象が顕著になってきた。

 パソコンに始まり,携帯電話機,光ディスク,薄型テレビ,プリンター…と,デジタル化した製品で特にモジュラー化が進んだ。インテグラル型・垂直統合モデルの牙城といわれる乗用車にもその波は押し寄せているという見方もある。日本メーカーの多くは急速に進むモジュラー化の動きについていけずに競争力を落としている。

 日本の統合型企業がこうしたモジュラー化・水平分業化・コモディティー化した世界で競争力を上げていくにはどうしたらよいのだろうか。この問題を何回かにわたって考えていきたい。本稿では部品ビジネスについて見ていく。

勝ちパターンとしての「Intelモデル」

 前回のコラムでは,水平分業化/モジュラー化した世界での勝ちパターンの「原型」として,「Intelが構築したモデルがある」,という点について考えてみた。

 そのポイントをまとめると,(1)部品技術に関するノウハウや知的財産を押し込めたブラックボックス領域をつくり,その外部インタフェースの標準化を主導してオープンな世界をコントロールする,(2)ブラックボックス領域を拡大して,完成品が持つ付加価値を自ら構築したブラックボックスに移行,集中させる,(3)アジアの新興メーカーに対してリファレンス・デザイン(参照設計)や設計ロードマップを提供して,完成品に対する参入障壁を下げることにより,完成品メーカーが持つ付加価値を下げる---などであった。

 前回のコラムでも紹介した論文『我が国エレクトロニクス産業にみるプラットフォーム形成メカニズム』の著者である東京大学21世紀COEものづくり経営研究センターの小川紘一氏は,こうしたモデルを「アーキテクチャ・ベースのプラットフォーム」と定義している。

 なぜ「アーキテクチャ・ベースのプラットフォーム」なのか。自ら編み出した「匠の技」をブラックボックスとして埋め込んだ部品を中核にしてアジアの新興メーカーがものづくりをする「基盤」を提供する,という意味で「プラットフォーム」であると思われる。さらにこのプラットフォームは,製品アーキテクチャがオープン・モジュラー化することが条件になっているために,「アーキテクチャ・ベースのプラットフォーム」と呼んでいると筆者は理解した。

「プラットフォーム」の中核に鎮座する「技術」

 筆者がこの論文を読んで特に印象的だったのは,前回も述べたようにプラットフォーム内部にはブラックボックス領域が必ず必要だということと,ブラックボックスの基となる技術ノウハウを生み出すという面では,日本の垂直統合型企業は,最短距離にいるという指摘である。

 この指摘から考えると,最近いろいろなところで「日本の統合型企業は技術偏重でやってきたが,これからは“技術オタク”を脱却して儲けるためのビジネスモデルを考えた方がよい」という意見が聞かれるようになっているが,“技術オタク”であること自体は決して間違っていないと思われるのである。そこが儲けの源泉であることは,垂直統合モデルでも水平分業モデルでも変わらない。問題は,生み出した技術やノウハウを儲けに結び付けられないところにある。

日本企業が苦手な「標準化」と「アジア企業の巻き込み」

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