日本企業が苦手な「標準化」と「アジア企業の巻き込み」

 どこに問題があった(ある)のだろうか。前回のコラムで見たような欧米,アジア企業が得意としていた点を逆にみると,第一にインタフェースの標準化で主導権を握るのが苦手なこと,第二にアジアの新興メーカーを巻き込んだシナリオを描くのが苦手なこと---の二つが考えられる。

 頼みの綱となるのは,日本メーカーの中にもそうした問題に真っ向から取り組み,標準化を主導し,アジアメーカーを巻き込んで「アーキテクチャ・ベースのプラットフォーム」形成に成功した企業があったという事実である。彼らの成功例を分析し,ヒントにするところから,希望の光が見えてくるに違いない。小川氏は論文の中で,光ディスク産業の中から,三洋電機と三菱化学のケースを紹介している。

 このうち三洋電機は,DVD装置の業界で「トラバース・ユニット」(光ピックアップに加えスピンドル・モータや取り付け部などを組み込んだモジュール)という部品をベースとしたプラットフォームの形成に成功したということである。

部品メーカーに徹し,台湾企業と組む

 成功のポイントは,論文中でいくつか指摘されているが,そのうち筆者が特に重要だと思ったのは,三洋電機は統合型企業であって完成品の技術を持っていながら「部品メーカー」に徹したことと,台湾の半導体メーカーであるMediaTek社とパートナーを組んだ,という2点である。

 三洋電機は,最終製品としてのDVDプレーヤを開発する技術力を持っており,そのノウハウが詰まったトラバース・ユニットを供給した。つまり,完成品を製品化する能力はあったにもかかわらず,トラバース・ユニットという部品の専業メーカーの道を選択したのである。一方でMediaTek社は,その完成品のノウハウが詰まったファームウエアが埋め込まれた半導体を供給する。この両者が連携することによって,市場支配に成功したのである。

 市場支配の「構造」は,前回のコラムで紹介したように,MediaTek社が研究開発力のない中国メーカーでもつくれるプラットフォームを提供して,携帯電話ビジネスなどを支配したモデルと基本的に変わらない。「DVDプレイヤーにおける中国版Intelモデル」を追求しているといってもよいだろう。

擦り合わせのノウハウを半導体に

 MediaTek社にとって,DVDプレーヤが他のデジタル家電と違うのは,擦り合わせ型の技術ノウハウが詰まった光ピックアップという基幹部品が存在することではないかと思う。光ピックアップは,光学技術やレンズ制御技術,多数の部品を効率よく実装する生産技術などをはじめとした高度な技術ノウハウの結晶であり,完成品と部品の両方を持つ統合型企業以外はなかなかつくれない。そこで三洋電機と手を組むことで,そのノウハウを同社の半導体に集中させた。こうして,日本製の光ピックアップに最適設計された半導体が一体となったプラットフォームを構築できたのである。

 三洋電機側にとってみれば,「研究開発力のない企業でもDVDプレーヤが簡単につくれるようにするノウハウ」を取り込むことが可能になった点が大きいと思われる。前述したようにこの点は日本メーカーが比較的苦手な面であり,MediaTek社と組むことで欠点を補ったということかもしれない。

なぜ「プラットフォームづくり」が苦手なのか

 (次ページへ