まず液晶パネル・モジュールだが,これは間違いなく数年のうちに高性能品が流通するようになると見られる。

 前々回のコラムでも見たように,垂直統合モデルの雄,シャープでさえ,2010年稼動予定の第10世代工場で生産する液晶パネルは世界市場に向けて積極的に外販する,と発表した。

 もともと外販中心の台湾の液晶パネルメーカーもますます攻勢をかけてきている。台湾メーカーは特に近年,(1)生産能力の拡大,(2)高性能化,(3)低コスト化のさらなる進展,という三つの動きを強めている。さらに,これまでパソコン向けパネルで進めてきた水平分業型のビジネスモデルを薄型テレビにも広めようとしている((『日経マイクロデバイス』,2007年9月号解説「台湾パネル・メーカー,テレビ市場攻略へ動く」p.37参照)。

 そしてパネル以上に気になるのが,画像処理LSIの動向である。前述の論文『液晶テレビのアーキテクチャと中国企業の実態』では,次のように書いている。

「現時点では一般的な傾向として,テレビメーカーが社内あるいはグループ内で内製している画像LSIの方が,高いレベルの絵作りが出来ると言われている。しかし,専業型の画像LSIメーカー同士が競争することで,その製品(画像LSI)のレベルが高まり,このよな状態が逆転することもあるかもしれない。一部の専業LSIメーカーでは,テレビメーカーが社内・グループ内で内製するよりも高いレベルで絵作りが出来る製品群の供給を始めているメーカーもあるという」(同論文,p.9)。

 統合型企業は,より高画質化を目指して,専業LSIメーカーより常に先を行っていなければならない。統合型企業の擦り合わせのメリットが勝つか,専業LSIメーカーの競争環境のメリットが生きるかであるが,現状では統合型企業の強みがまだ生かされる状況ではないかと思う。

「終わり」は来るのか?

 こうなると気がかりなのは,価格差の原動力である「高画質化レース」がいつまで続けられるかどうか,という点である。一つの「終わり」は,高画質化が消費者のニーズを超えてしまうことだろう。もちろん,統合型企業が得意とする技術革新による付加価値の向上は高画質化だけではないが,高性能化そのものの「ゴール」が来るということも念頭に置かねばならないだろう。

 そこでぜひ考えたいのが,技術革新による高性能化競争の一方で,モジュラー化/水平分業化した世界でも勝てる道の模索である。

 しかも,日本が得意とする,垂直統合モデル,擦り合わせ力,巧みの技,中小企業が培ってきた層の厚い基盤技術…これらを生かした上で,モジュラー化/水平分業化した世界で生きる道はないだろうか。

「窓」を開けたブラックボックスとは?

 そのポイントは,上記の日本の得意技によって生み出した技術ノウハウをクローズドなところに押し込めてブラックボックス化すると同時に,オープンな「窓」のような部分を開けて,世界的なレベルでの販売量拡大と外部のイノベーションの成果を取り入れることだと思われる。

 「クローズドな世界」と「オープンな世界」という,一見トレードオフの関係のあるものを両立させて初めて,統合型企業が勝つための条件が見えてくるはずであるが,これについては,また稿を改めて考えてみたい。