先週の8月2日,シャープの記者懇談会が都内のホテルで開かれた。同じ週の7月31日に「『21世紀型コンビナート』と銘打った液晶第10世代パネルと薄膜太陽電池の新工場を大阪府堺市に建設する」(Tech-On!の第1報記者会見の一問一答を伝えた続報コンビナートの狙いについて書いた続報)と発表したばかりだったので,会場は報道陣でごった返していた。かく言う筆者も新工場のコンセプトに興味があったのと,この4月に新社長になった片山幹雄氏にお目にかかるために出かけたのであった。

「世界で戦える工場にしたかった」

 懇談会は片山社長のスピーチで始まった。同氏はまず新工場についてこう説明した。

 「新工場の発表が1年くらい遅れたのではないかと皆さん思われているかも知れませんが,ご理解いただきたいのは,シャープとしてはこの新工場に社運をかけていますし,当社がこれまでやってきた液晶事業の集大成として,どうしたら世界的に競争力を上げられ,グローバルに戦えるか---。そうした新しい仕組みの工場をつくりたかったということです。ガラスの大きさだけではそれはできません。今回我々がやったのは,新しいコンセプトとして『21世紀型コンビナート』をつくりたい,ということです。そのコンセプトとはどのようなものかと言いますと,大型の液晶パネル工場に加えて,素材,エネルギー,材料,部材,場合によっては装置まで同じ敷地内でつくってしまおう,ということなのです」。

 シャープは素材メーカーではないので,素材メーカーに新工場の敷地内に入ってきてもらうことになる。片山氏は,現在まで決まったサプライヤーとして,ガラス基板の米Corning社やカラーフィルターの大日本印刷を挙げ,さらに他の素材メーカーとも話を進めている最中だという。特に,同氏が強調したのがガラスだ。原料のケイ石を溶かす炉まで工場内に建設し,原料からガラス基板まで作成する一貫ガラス工場をつくるのだと言う。それを聞きながら筆者は,確か韓国メーカーも炉を含めた一貫ガラス基板工場を液晶パネル工場に隣接して建てていることを思い出したが,片山氏はそれを見透かしたように続けて次のように語ったのだった。

「シャープのコアは薄膜技術」

 「そうしたことは韓国や台湾メーカーも既にやっているのではないかという声は当然あると思います。では,シャープのコアは何かといいますと,薄膜の技術なんです。シャープはこれまで,先代の社長の時代から,21世紀に生き残るために環境配慮を意識した企業として,省エネの液晶テレビと創エネ,つまりエネルギーをつくる太陽電池の2つを軸にしたいと言ってきました。(中略)新工場の薄膜太陽電池では,液晶パネルと同じく,ガラスの上に薄膜シリコンを形成します。シランガスを使いますから,ガスの供給プラントからガラス基板など,さまざまなハンドリングを共有化できます。つまり,液晶パネルと薄膜太陽電池の工場を同時につくることでインフラのトータルコストを抑えられると考えています」。

 なるほど,液晶パネルと太陽電池に共通する技術としての「大型ガラス基板上の薄膜」を垂直統合化するのは確かにシャープならではかもしれない。シャープはこれまで,特に亀山工場でそうだったように,部材メーカーを戦略的パートナーとして囲い込み,互いの暗黙知を持ち寄って,擦り合わせによって新技術を生み出す「ブラックボックス」戦略を採ってきた。片山氏の話を聞かせていただいて,これまでのサプライヤーとのパートナーシップに加えて,自ら内製する薄膜技術によって,垂直統合モデルをより完全なものにしようとする意図がより鮮明になったようだった。

 懇談会の会場では,Corning社や大日本印刷以外のサプライヤーの可能性やどの程度のコラボレーションを進めるのかについて,記者陣からシャープ役員への質問が相次いでいた。ただし,それについては誰もが「検討中」ということで具体的な社名は明かしていなかったようだった。サプライヤーとの関係については,「深く突っ込んだ関係を構築しようとしている。メーカーの枠を超えた垂直統合を目指すということだ」という発言が聞かれた。

 ここでふと,疑問が湧いた。今回の発表では素材などの川上統合が強調されているが,川下統合の方はどうなっているのだろうか---。亀山工場はパネルとテレビの垂直統合モデルであった。役員のどなたかにうかがおうと思ったが,それぞれ記者たちに取り囲まれて入り込めない。ちょうど目の前を通りかかった当社の記者に聞いてみると「国内向けのテレビ工場は敷地内につくる予定だ,と言ってましたよ」とのことであった。やはり,素材-パネル-テレビの垂直統合モデルを志向しているようである。

大型液晶パネルの本格外販がもたらすものとは