彼は言う。「景気がいいから」だと。それこそ1970年代からレコードジャケットやポスターなど、多くの商業デザインを手掛けてきた彼の経験則によれば、景気が悪くなれば「洋風」な注文が増え、景気が良くなると「和風」な依頼が多くなるのだという。要するに、景気が悪いときは自信を喪失して「自分はダメだ」と自虐的になり、海外にすがるような視線を浴びせることになる。ところが景気がよくなって自信を回復すると、「成功しちゃったかも感」「オレってスゴいかも感」が高揚し、和風、つまりは日本的なものが好まれる傾向になるということだろう。

 確かに不況期には、「そんなに日本がダメとも思えないんだけど、自信をなくし過ぎなんじゃないか」と海外の評論家などからも言われるほど、日本人は意気消沈してしまった。景気が回復し、自信を回復するのも悪くはないだろう。ただ、心配がないでもない。自信過剰になってしまうことである。いつもながら大きなお世話ではあるのだが。

 私が『日経ビズテック』という技術経営誌の編集長をやっていた時代に、東芝出身で後に米Texas Instruments Inc.の上級副社長なども務められたスタンフォード大学教授の西義雄氏に寄稿をお願いしたことがある。「停滞産業復興計画」という特集の中で、半導体産業について書いていただいたのだが、その中で西氏は「日本人はどちらかというと、一度勝利すると有頂天になる傾向がある。なぜ勝ったのか、どうなると今後負ける可能性が出てくるのか、勝ち続けるにはどうしたらいいのか、をあまり考えない」と指摘しておられた。

 古い例として、零戦を挙げる。「強かったのはせいぜい2年程度で、その後優位性を失った。しかし、日本人はいつまでも、零戦は世界最高技術と信じていた」と。

 半導体産業に関しても、同じような「自信の落とし穴」があったのではないかというのが、西氏の主張である。1980年代の終わりころ、彼は『日経エレクトロニクス』の依頼で米国の半導体技術に関して寄稿した。一言でいえば、「米国の技術は、日本人が思っているほど、日本に負けていないぞ」という内容だったという。その後西氏は、その寄稿を読んだ数人の日本人技術者に会うのだが、一様に「今や日本の技術にかなうところはない」と反論したらしい。

 「ずいぶん傲慢な発言だった」という。