半導体やFPD(フラットパネル・ディスプレイ)で快進撃を続ける韓国メーカーだが,自動車分野でも成長が著しい。特に中国市場における積極投資は凄まじいものがある。いわば,供給力を一気に拡大してシェアを上げる「供給力圧倒作戦」である。まずは顧客満足に結び付く初期品質などの「表の競争力」をトップダウンで上げて供給を確保してから,次第に生産性などの「裏の競争力」を上げていって総合的な競争力アップにつなげている。もう一つ,徹底的に低コストな調達体制をとっていることも大きい。技術面で日本メーカーをキャッチアップしながらも,日本メーカーがなし得なかった戦略を突き進む韓国メーカー躍進の「秘訣」はどこにあるのだろうか。

 先週(2006年2月15日),日経Automotive Technology誌の主催でセミナー「グローバル時代を生きる部品メーカーの課題」を開催した。自動車メーカーは商品,市場,生産,人材など様々な点でグローバル化を進めており,そうしたグローバル化時代で部品メーカーが進むべき指針を示そうとしたものである。

 今後の自動車産業を牽引するのは,西欧・北米などの成熟市場ではなく,アジア・東欧・南米などの新興市場であるが,中でも高い成長を示しているのが中国だ。東京大学助教授の丸川知雄氏の講演によると,2005年には中国における自動車の生産台数は571万台で,販売台数もほぼそれと同じ。生産台数では,米国,日本,ドイツに次ぐ世界4位に,販売面では米国,日本に次ぐ世界3位の市場に成長した。中国の自動車市場は2010年には800万~1000万台になるとの予測が一般的だという。1000万台とすれば今後の年平均成長率は11.5%,800万台でも同7.4%という高い値になる。そして「現状を見るとほぼその方向で進んでいる」と丸川氏は言う。

 その中国市場に今のうちにがっちり食い込もうと,各自動車メーカーが激しく動き回っている。ここ数年の各社の生産台数を見ると,そのトップ争いは熾烈である。中国市場への参入が早かった上海フォルクスワーゲンの生産台数は2003年に40万台を超えたが,それを最高に他社に市場を奪われ続けて2005年には約25万台まで低下した。シェアは2位に転落した。一汽フォルクスワーゲンも2003年に30万台を超えたのに2005年には25万台を切っている。

 上海フォルクスワーゲンに代わってトップに立ったのは,上海GMである。30万台近いレベルにまで上げてきた。ただし丸川氏によると,中国における自動車市場は車種のバラエティーが多い傾向があり,「1社だけで30万台を超えるのは難しいようだ」と見る。30万台に壁があり,上海GMがこのままシェアを伸ばし1位で居続けるかどうかは予断を許さない。

現代グループ,2010年に中国で100万台生産

 トップ争いだけではない。先頭集団に迫ろうとするグループも激しく入れ替わっている。そうした中で最近,広州ホンダを抜いて第4位に踊り出たのが韓国・現代自動車系の中国法人である北京現代である。同社は2002年に稼動を開始し,2003年には5万台程度しかなかった生産台数が2005年には20万台を超えたことを考えると,いかに中国市場で急速にシェアを伸ばしているかが分かる。

 東京大学ものづくり経営研究センター特任助教授のJe-wheon OH氏(以下,呉氏)の講演によると,現代自動車がここまで中国に攻勢をかけているのは,「グローバルトップ5」という中長期ビジョンに沿ったものだ。2004年実績で現代グループは世界の販売実績で318万台で9位だが,これを米Genral Motors(GM)社,トヨタ自動車,米Ford Motor社,独VolksWagen(VW)社に次いで5位に上げる目標を掲げている。

 そのために,2005年実績で韓国内320万台,海外78万台の生産能力を500万台を超えるレベルまで増やそうとしている。韓国市場は既に飽和状態であるため海外生産を200万台にする計画だ。そのうち,100万台を中国で増強する。

 現代グループの中国における本格的な攻勢は今年から始まる。北京現代は年間生産能力を2005年に30万台に拡大したばかりだが,2006年にさらに30万台の能力を備える第2工場の建設に着手し,生産能力を一気に2倍に増やす予定だ。さらにグループ企業の東風悦達起亜(2005年15万台)も2006年に第2工場(生産能力30万台)を建設する計画であるという。

 日本メーカーならば「“30万台の壁”もあることだし30万台もの工場を次々に作って果たして売れるかどうか」と慎重に進めるところだが,現代自動車にそうした躊躇は全く感じられない。「一気に攻め,作ったものは何がなんでも売る,という強い意志を感じる」と呉氏は言う。

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