日本の半導体産業が苦しんでいる。日経エレクトロニクス誌は2006年1月16日号の特集「半導体世界再編」で,日経マイクロデバイス誌は2006年1月号の特集「勝ち組に見るデバイス戦略の王道」で,日本の半導体メーカーが苦境に陥っている原因と処方箋を提示している。その内容はぜひ,両特集をお読みいただければと思うが,ここでは「カスタム品」をキーワードに日本の半導体産業の競争力について考えてみたい。

 両特集がとにかく強調しているのは,高コスト体質を改善して,コスト競争力を強化することである。中でも筆者が注目したいのは,これまで日本メーカーが得意としてきた,顧客のニーズをくみ取って「カスタム品」を丁寧に開発するスタイルが転機を迎えていることだ。

 例えば,日経エレクトロニクスの特集「半導体世界再編」の中で,エルピーダメモリ社長の坂本幸雄氏は「海外に比べると国内向け半導体製品は機能が多すぎる。低機能版をどんどん売ればいい。ところが,ご丁寧に顧客ごとのカスタマイズをしている。液晶ドライバICでもいまだに顧客の言うがままという場合が多い。当然,出荷量が多い標準品の競争力が増す。カスタム・チップならば高く売れるという幻想を早く捨てないと,将来はない」と指摘する。

 また同じ特集の中の「技術者座談会」でも,ある技術者がこう語る。「彼ら(韓国Samsung Electronics社)は,日本の機器メーカーをそもそも相手にしないんですよ。顧客に合わせて仕様をいちいち変えたりしない。大型コンピュータではかつて,IBM社は自社の仕様を押し付けるけど日本勢は細かく要望に応じるから勝てるという期待があったわけですが,現実にはあまり対抗できませんでした。デジタル家電用のシステムLSIではカスタマイズしないことでコストを抑える戦術がなおさら効くと思いますよ」。

日本の「お家芸」が弱点に…

 半導体に限らず,顧客のニーズにきめ細かく対応して高付加価値なカスタム品を開発するのは日本のお家芸でもあるし,強みでもあった。例えば,自動車部品メーカーはいわゆる「擦り合わせ」によって自動車メーカーの要望に応えてカスタム品を作るのが得意であり,競争力の源泉だと言われている。液晶パネル向けの部材メーカーは,パネル・メーカーのニーズをくみ取って高機能なフィルムを開発し,圧倒的なシェアを築いた。

 なぜ半導体ではこうした本来の「強み」を発揮できていないのだろうか。1つ考えられるのは,確かに日本の半導体メーカーの技術力は高いが,その技術力を向ける方向が間違っているのでないか,ということである。例えば,達成しようとする製品の品質・機能レベルと顧客・市場が求める「価値」がずれているということかもしれない。必要最小限の機能と低価格を要求する汎用品であるにもかかわらず,必要以上の機能を盛り込んで高コスト体質になる。これは半導体メーカー単独の問題ではない可能性がある。発注側の機器メーカーが「あれもこれも」と要求し,それに半導体メーカーが真摯に応えるという形の「共同作業」によって過剰品質と過剰機能が無駄に作り込まれてしまう構造的な問題になっている。

 誰でも,開発に着手する際には,高品質・高機能にすることによって高価格で売れるという見込みを持ってカスタム品を開発するはずである。問題はその先だ。同じカスタム品でも,その後にほかの機器メーカーにも採用されて標準品への道を歩むか,それとも単一メーカーへの少量納入で終わるかの分かれ道で,過剰機能などを多く抱えていると,標準品に向かう道に乗れない。どのようなカスタム要求を受け入れることでどの程度の「価値」が生まれ,それがどの程度マーケットに受け入れられるかの見極めが甘いということかも知れない。

カスタム品から標準品への切り替えに苦慮