東芝と量子科学技術研究開発機構は2016年9月26日、重粒子線がん治療装置向けの腫瘍追跡技術を開発したと発表した(プレスリリース)。コンピューターによる学習機能を用いた画像認識技術を活用。体内に金属マーカーを埋め込むことなく、呼吸に伴って動く腫瘍の位置を誤差1mm程度の精度で追跡する。東芝はこの技術を搭載したシステムを、2017年度に製品化することを目指す。

 肺がんなど、呼吸に伴って動くがんを放射線で治療する場合、呼吸の動きに合わせて患部に治療ビームを照射し、正常組織への影響を避ける必要がある。呼吸に同期した照射を行う手法としては、患部付近に埋め込んだマーカーを目印に、X線透視装置を使って腫瘍を捉える方法と、マーカーを使わず、患者の体表面の動きをセンサーで監視して呼気時にビームを照射する方法がある。

 マーカーを使う方式では、マーカーを使わない方式に比べて腫瘍の位置を高精度で捉えることができる。ただし、マーカーを体内に埋め込むという負担を患者に与える。そのため、マーカーを使わずに高精度で腫瘍を捉える手法が望まれていた。

呼吸同期照射への適用例。左が肺がん、右が肝臓がんに対する照射
呼吸同期照射への適用例。左が肺がん、右が肝臓がんに対する照射
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 今回の技術ではまず、治療前に撮影した患者の4D-CT画像を基に、デジタル再構成シミュレーション画像(DRR画像)を作成。そのDRR画像から、腫瘍のある領域と腫瘍のない領域を分け、それぞれの形態的特徴をコンピューターに学習させる。

 治療時には、実際のX線透視画像に対してコンピューターが、学習で得られた形態的特徴を基にどの領域が腫瘍かを判断。これにより、誤差1mm程度で腫瘍の位置を特定する。

 東芝が映像事業で培ってきた画像処理技術と、量研機構のがん治療実績を活用した成果という。技術の詳細は、米国ボストンで開催される放射線治療に関する国際会議「第58回米国放射線腫瘍学会(ASTRO2016)」で、2016年9月26日(米国時間)に発表する。