試作したペロブスカイト太陽電池の発電性能を測定する様子
試作したペロブスカイト太陽電池の発電性能を測定する様子
(写真:東京大学)
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試作したペロブスカイト太陽電池
試作したペロブスカイト太陽電池
(写真:東京大学)
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K<sup>+</sup>を5%加えて作製したペロブスカイト層などの断面写真
Kを5%加えて作製したペロブスカイト層などの断面写真
ペロブスカイト層の水平方向には、粒界が認められなくなった(写真:東京大学の写真に本誌が説明を加筆)
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ペロブスカイト材料の結晶
ペロブスカイト材料の結晶
太陽電池では、ABX3という構造のAサイトにMAやFAなどの有機分子が入る。(図:東京大学 瀬川研究室の図を基に本誌が作成)
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半径の大きいAサイトの粒子を小さな粒子で”中和”
半径の大きいAサイトの粒子を小さな粒子で”中和”
ペロブスカイト材料の幾何学的安定性は、Goldschmidtのトレランスファクター t と呼ばれる指標で評価できる。AサイトにFAを用いるとtの値が大きくなり、不安定化するため、イオン半径が小さなアルカリ金属を加えてバランスを取る手法が開発された。今回東京大学は、これまで”小さすぎる”と考えられていたKをCsやRbの代わりに用いた。(図:パナソニックの資料を基に本誌が作成)
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 東京大学 大学院総合文化研究科広域科学専攻 教授の瀬川浩司氏と同大学 先端科学技術研究センターの別所毅隆氏の研究グループは2017年9月22日、ペロブスカイト材料に、それまでの非常に高価なレアメタルの代わりに安いカリウム(K)を5%加えることで、変換効率20.5%と高い性能と長寿命のペロブスカイト太陽電池(PSC)を実現。しかも、PSCの大きな課題だったヒステリシスがほぼなくなったと、新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)が2017年9月22日に開催した「平成29年度NEDO新エネルギー成果報告会」で発表した。論文も同日夜、公開された。

 これまで、PSCの変換効率向上や長寿命化の”はなぐすり”として用いられていたレアメタルは、セシウム(Cs)やルビジウム(Rb)。これらは供給量が少なく、金(Au)や白金(Pt)並みに高価だが、Kはほぼどこにでもあり非常に安い。高効率で長寿命のPSCを低コストで製造する上で大きな一歩になりそうだ。瀬川氏は、自らがリーダーを務める「NEDOペロブスカイト太陽電池プロジェクト」に参画する企業を通じて、実用化を進めていくとする。

構造の安定化で効率と寿命が同時に改善

 PSCでは、光吸収層にABX3というペロブスカイト構造の材料を用いる。最近は、このAサイトに相当する材料の一部にCsやRbといったアルカリ金属のイオンを用いることで、高い変換効率と高い安定性を両立させる手法が注目を浴びている。例えばパナソニックとスイスの大学 Ecole Polytechnique Federale de Lausanne(EPFL)は2016年9月、それまでのCsにさらにRbを加えて、変換効率21.6%を実現した(論文日経エレクトロニクスの記事。寿命の点でも大きく改善し、(変換効率がやや低いセルでは)光を500時間照射後でも初期効率の95%を維持したとする。

 ここでRbを加えた動機は、ペロブスカイト材料の幾何学的な構造の安定化だ。ペロブスカイト太陽電池のAサイトには当初は、メチルアンモニウム(CH3NH3 : MA)を用いることが一般的だったが、最近は、バンドギャップ(Eg)の点からホルムアミジニウム(CH3(NH22 : FA)を用いると変換効率が高まることが知られるようになった。一方で、FAはイオン半径が大きくてペロブスカイト材料が幾何学的に不安定になり、寿命が短くなる。そこで、イオン半径がやや小さい陽イオンを加えて、Aサイトの実効的なイオン半径を最適化する試みが盛んになっている。その陽イオンの元素が、アルカリ金属のCsやRbだった。

 アルカリ金属元素にはこの他に、K、Na、Liなどもあるが、次第にイオン半径が小さくなる。CsとRbのイオン半径はそれぞれ0.169nmと0.148nmだが、Kは同0.133nm。パナソニックは「K、Na、Liはイオン半径が小さすぎて使えない」として、CsとRbを選んだ。

小は大を兼ねる!?

 一方、東京大学の瀬川氏らは、Rbの追加が有効ならKも試してみる価値があると考えた。CsやRbはレアメタルで1グラム数千円と、AuやPtと同程度の価格である。一方、Kは非常にありふれた元素で価格は低い。CsやRbの代わりにKが使えれば、製造コスト低減に大きなインパクトがある。

 実際、KイオンをAサイトの組成比で5%加えて、ペロブスカイト太陽電池を試作したところ、変換効率は20.5%だった。ペロブスカイト層の組成比は、K0.05(FA0.85MA0.150.95Pb(I0.85Br0.153となり、CsやRbは用いていない。Kイオンの組成比を0~20%の範囲で変化させて太陽電池を試作したところ、5%が最適だったとする。寿命の点では「光を888時間照射した後でも、変換効率は初期値の90%以上だった」(論文)と、パナソニックの成果と同水準の結果を得たとする。

 さらに瀬川氏は、効率や寿命以外の成果もあったとする。(1)I-V特性のヒステリスがほぼ消えたこと、(2)ペロブスカイト層の水平方向の粒界もほぼ消えた、ことだ。

 (1)について、これまでのペロブスカイト太陽電池の多くには、I-V特性を測定する際に電圧を高める方向での測定と電圧を低くする方向での特性が異なるというヒステリス性があった。しかも、電圧を変化させる際の速度によってもI-V特性が変化した。これでは、太陽電池の変換効率を正確に測定することができない。これが今回はこうしたヒステリスがほぼなくなり、電圧の走査速度への依存性も消えたという。

 (2)については、一般的なペロブスカイト層は多結晶で粒界が多数できていた。今回は特に同層に水平な方向には粒界が認められなかったという。