「社長を辞めようとしたが...」

アジアスーパーグリッドの事業性が見えてきたという孫氏
アジアスーパーグリッドの事業性が見えてきたという孫氏
(出所:日経BP)
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 実は、震災直後、孫氏は、福島の状況の改善に専念するため、ソフトバンクの社長を「1年間、辞任したい」と、取締役会で伝えたという。

 その取締役会では、「他の取締役たちから怒鳴られ、喧嘩するような状態となり、社長の辞任は諦めた。その代わり、原子力を代替するエネルギーに取り組むことを認めてもらった」(孫氏)。それと同時に、個人の立場で自然エネルギー財団を設立し、活動を開始した。

 原子力を代替するエネルギーとして、有力なのは再エネだった。

 ただし、日本だけで再エネを増やしても、気象状況による発電量の変化などがあり、原子力が支えていた分を賄いきれない。

 そこで、アジアや、さらに世界のさまざまな地域と電力網を海底ケーブルで結び、時差や気象条件の違いによる太陽光や風力の発電電力を融通し合えるような電力網の国際連系を思いついた。これを「アジアスーパーグリッド構想」として2011年9月に発表した。

 当時、「壮大すぎて信じがたい、採算的にも政治的にも実現しえない、クレイジーなアイデアだと、多くの人から言われた」(孫氏)という。

 一方で、再エネ発電事業については、着々と進めてきた。子会社のSBエナジーを通じて、現在、国内で33カ所の太陽光・風力発電所が稼働している。

 日本よりも風力発電に向くモンゴルや、太陽光発電に向くインドでも、再エネ発電所を開発している。

 モンゴルでは、合計出力70GWの風力発電所を設置できるだけの土地の100年間の使用権を得ており、すでに小規模な風力発電所を開発している。

 インドでは、出力350MWのメガソーラー(大規模太陽光発電所)を開発しているなど、合計出力20GW規模で太陽光発電所を開発する計画。「おそらく、世界最大となる太陽光発電プロジェクトを、インドで開発する」ことも明らかにした。

 海外での再エネ発電所の開発と並行して、アジアスーパーグリッド構想も、実現に向けて動き出した。