フォルクスワーゲンの闇 世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽
フォルクスワーゲンの闇 世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽
ジャック・ユーイング著、2017年7月27日発行、日経BP社刊
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 2015年に発覚したドイツVolkswagen(VW)社によるディーゼルエンジンの排ガス不正問題。ドイツに在住するニューヨーク・タイムズ記者のジャック・ユーイング氏による丹念な取材を通じて深層をあぶり出した著作が新刊「フォルクスワーゲンの闇 世界制覇の野望が招いた自動車帝国の陥穽」(日経BP社刊)である。大聖泰弘氏は、早稲田大学でエンジンの研究に長年携わり、多くの成果を発表してきた。本書を読んで、ディーゼル乗用車の将来を憂慮する。(日経Automotive)

 技術上の失敗を許さない独裁的なトップの体質、目的のために手段を選ばないやり方、技術者としての倫理観の欠如、組織的な隠蔽体質――。本書を読んでVW社の排ガス不正問題の全貌を知ると、巧妙で悪質な技術的な不正にとどまる問題ではなく、企業としての法令順守や統治のあり方、それらのチェック体制を根本的に問い直すスキャンダルだったことがよく分かる。

 米ウエストバージニア大学の2人の学生が、“クリーンディーゼル”と呼ばれていたエンジンを搭載する「ジェッタ」でカリフォルニア州内を走りながら、テールパイプから出てくる排気を分析するのに悪戦苦闘する場面から物語が始まる。分析の結果、規制値の数倍から数十倍もの窒素酸化物(NOx)が出ることが判明した。

 排ガスを厳正に取り締まることで知られるカリフォルニア州大気資源局(CARB)が、学生らが悪戦苦闘して得た結果を米環境保護局(EPA)に通報。EPAが1年以上にわたってVW社とやりとりを続けて、車両を固定する台上試験では排出ガスの低減システムを作動させる一方、実際の路上を走るとそのシステムを機能させない制御ソフト、いわゆる不法な「デフィートデバイス(無効化装置)」――を使っていることを認めさせた。2015年9月18日、EPAがVW社に対するディーゼル車の大気浄化法違反を公表し、世界に激震が走ったのはよく知られる通りである。