試作した80mm角平板 プロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC)
試作した80mm角平板 プロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC)
(出所:産総研)
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試作セル(上:100 mm長チューブ型、 左下:80 mm角平板型、中下:50 mm角平板型、右下:従来サイズの25 mm径コイン型)
試作セル(上:100 mm長チューブ型、 左下:80 mm角平板型、中下:50 mm角平板型、右下:従来サイズの25 mm径コイン型)
(出所:産総研)
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開発した電解質層の断面電子顕微鏡写真
開発した電解質層の断面電子顕微鏡写真
(出所:産総研)
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評価用50 mm角平板PCFCの外観と発電特性(作動温度600 ℃と700 ℃)
評価用50 mm角平板PCFCの外観と発電特性(作動温度600 ℃と700 ℃)
(出所:産総研)
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 産業技術総合研究所(産総研)は7月4日、世界初となる実用サイズのプロトン導電性セラミック燃料電池セル(PCFC:Protonic Ceramic Fuel Cell)の作製に成功したと発表した。

 PCFCは、理論的には燃料を100%利用でき、すべての既知の発電デバイスを超える発電効率75%を実現できる可能性があるが、プロトン導電性セラミックスの作製には1700度以上の高温焼成が必要で大型化が難しかった。量産プロセスに適用可能な製造技術を開発し、従来の直径30mmサイズを大幅に上回る80mm角サイズのPCFCを作製した。

 PCFCは、セラミックス電解質膜と、それを含む空気極と燃料極の3層構造で、セラミックス電解質膜中をプロトン(水素イオン)が選択的に透過することで電池として作動する。これまでプロトン導電性セラミックスの焼結温度を下げるのに焼結助剤として遷移金属を添加していたが、添加助剤がプロトン導電性セラミックスの粒界に偏析しやすく、絶縁性が低下するため電解質層としては問題があった。

 今回、焼結挙動を詳細に分析して、焼結助剤を含む燃料極支持体と薄膜電解質を共焼成する過程で粒界偏析させず遷移金属を優先的に電解質中に完全固溶させる拡散焼結法を考案し、1500度で焼結率100%(密度99%以上)、ガスリークがない緻密な電解質層を得ることに成功した。また、押出成形法やテープ成形法での燃料極基材作製と、ディップコーティングやスクリーン印刷での成膜と焼成による電解質層や空気極層の形成により、チューブ型や平板型などさまざまな形状の燃料電池セルが試作できるようになった。

 また、燃料極側にバリウム(Ba)系ペロブスカイト材料であるBaZrO3系材料の薄層電解質を選択し、空気極側にプロトン導電性が高い電子リークブロック薄層を積層化させる方法を考案し、CO2耐久性と電子リーク抑制を両立させた。従来(小型のコイン型セル)の開回路起電力が0.93~0.99Vだったのに対し、今回開発した実用サイズの発電セルは同1.06Vとなり理論値の93%近くまで向上した。

 評価用に作成した50mm角型平板単セルは、定格作動電圧0.85Vにおいて、作動温度600度で実電流値5.3A(出力値4.5W)、同700度で6.0A(5.1W)を示した。従来型SOFCの発電特性が700~750度、0.85V作動で電流密度0.2~0.3A/cm2なのに対し、PCFCでは100度低い作動温度600度でも0.85V付近で0.3A/cm2となり、SOFCより発電特性が優れていた。

 新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)の委託事業「NEDO先導研究プログラム/エネルギー・環境新技術先導研究プログラム」において、パナソニック、ノリタケカンパニーリミテド、一般財団法人・ファインセラミックスセンター、東北大学、横浜国立大学、宮崎大学との連携研究や、東京ガス、東邦ガスとの協力で進めている研究開発によって得られた。今後は、単セルショートスタックの効率評価による課題抽出を行い、超高効率PCFCの実証に向けて産学官の連携研究をさらに推進し、次世代分散電源としての活用が期待される超高効率燃料電池の実現を目指す