カーボンナノリングを用いたカーボンナノシートの合成手法
カーボンナノリングを用いたカーボンナノシートの合成手法
(出所:NIMS)
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 物質・材料研究機構(NIMS)は7月6日、名古屋大学、東京大学と共同で、高い導電性や触媒機能を持つ新電子材料として期待されるカーボンナノシートを簡易に合成する手法を開発したと発表した。高い導電性を生かした太陽電池やタッチパネル、高価な白金を用いない燃料電池の触媒膜への応用などが期待される。

 二次元状の炭素材料であるカーボンナノシートの合成方法としては、グラファイトなどを物理的、化学的な手法で細かくするトップダウン的な手法と、自己組織化により分子を組み上げて炭素化するボトムアップ的な手法が挙げられる。

 ボトムアップ的な手法では、分子が形成する構造をナノレベルで精緻に制御できるのが利点だが、高価な装置や高度な技術が必要とされていた。また、高温で焼成し炭素化する最終段階でナノ構造が崩れると均一なカーボンナノシートが得られないという課題があった。焼成時の構造の乱れを防ぐには、互いに強く引き合う性質を持つ分子の利用が考えられるが、このような分子は三次元状に凝集しやすく、精緻なナノシート構造を得るのが困難だった。

 今回開発した手法は、ビーカーに水を注いで撹拌して過流を生じさせ、水面に輪状の炭素分子であるカーボンナノリングを展開し、しばらく静置させることで生じる自己組織化した薄膜を基板に写し取った。これにより厚さ10nm未満で100μm2にわたって均一な分子薄膜を得ることに成功した。一般的な実験室で利用されるビーカーと攪拌装置のみで再現でき、1ngと非常に少量のカーボンナノリングから1m2のナノシートを作製できる。

 カーボンナノリングから構成される分子薄膜は数十nmの無数の孔(メソポーラス)を持ち、焼成後もメソポーラス構造を保持したカーボンナノシートが得られた。ナノ構造を保持したまま炭素化できる事例は稀有という。さらに、カーボンナノリングに窒素を持つビリジンを加えることで窒素を含有したカーボンナノシートを作製。X線光電子分光法(XPS)により、カーボンナノシート内の窒素は有用な触媒活性を示す電子状態であることが示された。

 科学技術振興機構(JST)戦略的創造研究推進事業 総括実施型研究(ERATO)「伊丹分子ナノカーボンプロジェクト」および日本学術振興会(JSPS)科学研究費助成事業新学術領域研究「配位アシンメトリ」の一環として実施された。研究成果は、独化学会誌の英語版「Angewandte Chemie International Edition」のオンライン速報版に7月6日(現地時間)掲載された。