軽井沢・プリンスショッピングプラザ
軽井沢・プリンスショッピングプラザ

 軽井沢・プリンスショッピングプラザ――。ショッピングモールのインフォメーションセンターでは、スタッフが笑顔で接客している。一見、普通の接客だが、よく見ると直接言葉を交わしてはいない。どちらもスマートフォンに話しかけ、相手に画面を見せることで対話している(写真1)。

写真1●スマートフォンに話しかけ、相手に画面を見せることで対話
写真1●スマートフォンに話しかけ、相手に画面を見せることで対話

 実はこれは、訪日旅行客への接客シーンである。ゴルフ場跡地を生かしたこのショッピングモールには、台湾、香港、韓国、中国本土、タイをはじめ、各国からの旅行客が数多く訪れる。当然、店員と顧客との間には言葉の壁がある。状況によっては、ブランドショップに関する問い合わせ、営業時間、荷物の預け場所といった単純な情報のやり取りもままならない。

 これでは、せっかく訪日客が増えても機会損失が多く、効率が悪い。そこで、モールを運営する西武プロパティーズが決断したのが、スマートフォンを使ったリアルタイム翻訳の仕組みを導入することだった。

インバウンド拡大で広がる多言語アプリ

 訪日旅行客の増加を背景として、多言語アプリを導入する例が広がり始めている。旅行客にとっての現地語で各種のサービスを提供する「おもてなし」が目的である。例えば恩賜上野動物園と浜離宮恩賜庭園は2016年3月、多言語で音声ガイドや動画、写真、参考情報などを提供するアプリを導入した。

 地図会社の昭文社は、訪日旅行客向けの街歩きアプリ「MAPPLE-LINK」をリリース。富山県が観光アプリとして採用し、富山県内各観光地の地図と観光スポット情報の英語版コンテンツを無料提供している。ほかにも、多言語対応の地図と多言語コールセンターを連動させたコンシェルジュサービス「Smart-Com(スマートコム)」など、インバウンドのおもてなし用アプリや、それらの採用例はじわじわと増えてきている。

 こうしたアプリやサービスの一つとして、インバウンド向けで注目できるのがリアルタイム翻訳/通訳だ。スマートフォンやパソコンで文章や音声を入力すると、他言語の訳文を表示したり、合成音声で出力したりする仕組みである。

 文字を入力するWeb機械翻訳などは以前からあった。スマートフォンに話しかけると翻訳した文章を表示するアプリも同様である。ただ従来の仕組みには、会話の中で使うには翻訳のタイムラグが大きすぎる、翻訳の精度が高くないなどの課題があるものが多かった。

 実は、こうした機械翻訳の仕組みが次第に進化してきている。話しかけると即座に翻訳を画面に表示したり、合成音声を発したりするリアルタイム翻訳が増えている。さらに、翻訳・音声認識の精度を高めやすくなってきている。

 例えば米国では、米Waverly Labsがイヤホン型の翻訳機「The Pilot」を開発(写真2)。ペアになっている翻訳機を装備した利用者同士の会話の言語をリアルタムに変換する。現在、クラウドファンディングの形で予約を受付けている。Skypeもテレビ電話サービスに「Skype Translator」というリアルタイム翻訳のサービスを加えている。マイクロソフトの自動翻訳アプリを利用したものだ。

写真2●米Waverly Labsが開発したイヤホン型翻訳機「The Pilot」
写真2●米Waverly Labsが開発したイヤホン型翻訳機「The Pilot」

 残念ながら、これらは今のところ、日本語には対応していない。ただ、日本では国内企業がリアルタイム翻訳のアプリ/サービス開発に取り組んでいる。一例が東芝の「RECAIUS」。RECAIUSは音声認識、音声合成、翻訳、対話、意図理解、画像認識(顔・人物画像認識)などのメディア知識処理機能を提供するクラウドサービスの総称である。2016年6月には、サービスの一つとして音声翻訳アプリ「音声トランスレータ」をリリースした(関連情報)。

 ほかでは、パナソニックが首から下げる小型端末型の自動翻訳機を開発している(関連記事)。音声を端末が自動認識し、サーバーに転送して翻訳。戻ってきた内容を合成音声で再生する仕組みだ。また日本マイクロソフト、ブロードバンドタワー、豊橋技術科学大学は、機械学習技術を使った訪日旅行者向けリアルタイム翻訳サービスの開発に乗り出している(ニュースリリース)。旅行者が母国語で日本人と自然に対話できる水準を目指し、3年後をメドに実用化するという。