検証した共融系蓄電池の放電の模式図
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(出所:産総研)
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25℃と40℃で測定した3サイクル目の充放電特性
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(出所:産総研)
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25℃と40℃で、3時間放電・3時間充電を繰り返した充放電試験の20サイクルの充放電曲線
25℃と40℃で、3時間放電・3時間充電を繰り返した充放電試験の20サイクルの充放電曲線
(出所:産総研)
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 産業技術総合研究所(産総研)は6月8日、世界で初めて、正極側の活物質に共融系液体を利用した蓄電池を開発したと発表した。

 産総研の省エネルギー研究部門の周 豪慎・首席研究員(南京大学講座教授、筑波大学連携大学院教授)と、エネルギー界面技術グループの王 雅蓉・博士、三菱自動車が共同で開発した。

 共融系液体は、レアメタルを必要としない。また、正極側の活物質と電解液の二つの役割を担うことができる。この二つの特徴から、安価で、かつ構造劣化が生じにくい電池の開発が期待できるとしている。

 三塩化鉄六水和物(FeCl3・6H2O)と尿素(CO(NH2) 2)という二種類の固体物質を、共融点組成により混合して液体とし、これを正極側の活物質として用いた。

 これらの物質は常温では固体だが、共融点組成で混合すると、凝固点が低下して約-7℃まで固化しなくなり、液体として使うことができる。いずれも、レアメタル(高価な遷移金属)を含まないため、安価な材料である。

 この液体を使う場合、通常は必要となる、正極側の電解液が不要となる。また、固体の材料を使った場合に問題となる、構造劣化が生じない。これらが大きな利点となる。

 既存のLi(リチウム)イオンなどによる蓄電池は、電解液には揮発性の有機溶媒とリチウム塩、正極にはCo(コバルト)やNi(ニッケル)といった、レアメタルを含む酸化物の固体を使う。このため、コストなどが課題となっている上、充放電時のLiイオンの出入りの繰り返しによって、正極の固体の構造が徐々に壊れていく問題点があった。

 Liの負極と組み合わせ、蓄電池として動作させると、電圧が約3.4V、正極側の体積容量(共融系液体の体積当たりの容量)が141mAh/cm3を示した。

 また、繰り返し充放電の特性を測ると、試作段階の電池としては安定しており、正極の活物質を液体とした利点が生きていると分析している。