慶応義塾大学医学部放射線科学教室教授の陣崎雅弘氏らの研究グループと東芝メディカルシステムズは、全身用320列面検出器型の立位・座位CTを開発した。これにより、運動器疾患のような荷重がかかる病態の早期診断、ヘルニア・臓器脱のような腹圧がかかることにより明らかになる病態の診断、立位・座位での呼吸機能・循環動態の評価などが可能になるとしており、臨床研究を進めていく予定である。

 同装置は、従来のX線CT装置で縦置きになっていたガントリー(架台)を横置きにし、上下動をさせることで、立位・座位での全身撮影を可能にした。装置左右のスタンド部分に内蔵される高剛性、高精度な駆動機構の開発により、画質に影響を及ぼす振動を従来の臥位CT以下に抑えた。

立位・座位CT装置の外観(写真左:架台上部、写真右:架台下部)
立位・座位CT装置の外観(写真左:架台上部、写真右:架台下部)
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 特に姿勢保持のための用具や座位撮影を可能にする座位撮影補助具を開発し、円滑な検査フローを組み立てたという。東芝メディカルのエリアディテクターCT技術を応用した320列の面検出器により、1回転を最速0.275秒のスキャン時間で最大160mmの幅を0.5mmスライス厚で撮影できる。

 これまでもコーンビーム型のX線装置を用いて1回転数秒程度かけて体の一部を立位で撮影し、骨などの硬組織の構造を評価することはできたが、全身を撮影することはできず、また臓器や筋肉などの軟部組織を評価することも困難だった。今回の装置は全身撮影が可能なうえ、軟部組織も評価することができる。また、高速回転が可能な面検出器を用いて同一部位を連続撮影することにより、立位・座位での臓器や脊椎・関節の動態情報を収集することも可能という。

 陣崎氏をはじめ、同大学医学部特任准教授の名倉武雄氏、理工学部機械工学科教授の荻原直道氏の研究グループは、東芝メディカルシステムズをパートナーとして、構想から4年の歳月をかけて同装置を完成し、2017年3月に医薬品医療機器等法の認証を取得。同年4月に同大学病院に導入され、5月より臨床研究を行う予定である。

 同装置の導入・臨床研究により、(1)荷重がかかることにより明らかになるような四肢・脊椎の運動器疾患、(2)ヘルニアや臓器脱のような腹圧がかかることにより明らかになる病態の診断、(3)立位・座位での呼吸機能・循環動態の評価、(4)形成再建術の術前評価、(5)歩行機能などの多くの病態や機能の評価が可能になると期待されている。