「双子の半導体ポリマー」の構造
「双子の半導体ポリマー」の構造
ポリマー1とポリマー2ではアルキル側鎖の位置が入れ替わっている(出所:理研、JEOL)
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双子の半導体ポリマーを用いた有機太陽電池の電気特性とスペクトル
双子の半導体ポリマーを用いた有機太陽電池の電気特性とスペクトル
(出所:理研、JEOL)
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2次元固体NMRスペクトル解析の結果(上)と、フラーレン配置の模式図(下)
2次元固体NMRスペクトル解析の結果(上)と、フラーレン配置の模式図(下)
ポリマー1ではベンゾジチオフェンジオン(赤の構造)の近くにフラーレンが存在するため電子の流れが効率的になるのに対し、ポリマー2ではジメトキシベンゾジチオフェン(青の構造)の近くに存在するため電子の流れが非効率になる(出所:理研、JEOL)
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 理化学研究所(理研)と日本電子(JEOL)は4月26日、有機太陽電池中の半導体分子の界面構造を分子設計によって制御できることを見出し、固体核磁気共鳴(NMR)法を用いて分子レベルでの界面構造を解明したと発表した。また、界面構造の違いによって、有機太陽電池の電流発生効率に差が生じることが分かった。今後の有機太陽電池の効率向上に向けた材料開発で新しい指針になると期待されるとしている。

 有機太陽電池は、有機薄膜中の電子供与体分子と電子受容体分子の間で光を電気に変換する。そのため、有機薄膜中の分子レベルの構造、特に材料の界面における分子間の距離や分子の向きなどが効率に大きく影響すると予想される。しかし、分子レベルでの電子供与体と電子受容体の配置が不明だったため、有機太陽電池の動作原理の解明が難しく、電流発生効率を向上させる上での妨げとなっていた。

 研究チームは今回、主鎖骨格が同じでアルキル側鎖の配列パターンのみ異なる2種類の「双子の半導体ポリマー」を設計・合成した。このポリマー1とポリマー2は、光吸収性・結晶性・電気特性はほとんど同じだが、C60との混合バルクヘテロ結合を用いた有機太陽電池ではポリマー1の方がポリマー2より高い電流が発生し、太陽光変換効率が高いことが分かった。さまざまなフラーレン化合物を電子受容体に用いた場合も、どの組み合わせでも14~58%高い電流値を得た。

 2次元相関固体NMRを用いて混合薄膜の構造を解析した結果、ポリマー2で主鎖のメトキシ基(-O-CH3)とフラーレンとの相関ピークが明確に観測された。この結果は、ポリマー2とフラーレンの混合薄膜では電子受容体のフラーレンがポリマーの主鎖骨格のうち、より電子供与性の高いジメトキシベンゾジチオフェン(青の構造)の近くに存在することを示す。その一方、ポリマー1では相関ピークが観測されず、周辺構造の類似性から、フラーレンはベンゾジチオフェンジオン(赤の構造)の近くに存在すると考えられる。

 半導体ポリマーの励起状態では、電子はより電子受容性の高いベンゾジチオフェンジオンに存在することが分かっており、ポリマー1の方が光照射時の電子の流れがより効率的になると予想される。このように、半導体ポリマー主鎖周辺でのフラーレンの位置の違いによって、有機太陽電池の電流発生効率に差が生じることが明らかとなった。

 これまで有機太陽電池の材料開発では、アルキル側鎖は材料の溶解性と結晶性を制御する目的で導入されており、分子配置を制御するという観点はなかった。また、分子の配置と電流発生効率の関係についてはほとんど知見がなく、分子構造の改変と太陽電池の試作を繰り返すトライアンドエラーで材料を最適化するしかなかった。今回、分子レベルの界面制御が可能であることを示したことは、今後の有機太陽電池の効率化に向けた材料開発で新しい指針になると期待される。

 今回の成果は、理研および、理研とJEOLが共同設立した理研-JEOL連携センターとの共同研究によるもの。また、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金特別研究員奨励費「固体NMRを用いた原子レベルでの炭素繊維の解析」の支援を受けた。