日立製作所とHIROTSUバイオサイエンスは2017年4月18日、線虫によるがん検査の実用化に向けた共同研究開発契約を締結した(ニュースリリース)。HIROTSUバイオサイエンスが持つ、尿を検体として線虫でがんを検査する技術「N-NOSE」に、日立の自動解析技術を組み合わせ、大量の検査を短時間かつ低コストに実現できるようにする。がんの1次スクリーニング検査として、2019年末~2020年初頭の実用化を目指す。

 N-NOSEは、犬並みの嗅覚を持つ生物である線虫が、がん患者の尿には近づき、健常者の尿からは離れる性質(化学走性)を利用した、がんのスクリーニング技術だ。九州大学発ベンチャーであるHIROTSUバイオサイエンス代表取締役の広津崇亮氏が、2015年にそのポテンシャルを実証した(関連記事1同2)。

開発した自動撮像・画像解析システムを披露する、日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタの久野範人氏(右)とHIROTSUバイオサイエンス代表取締役の広津崇亮氏
開発した自動撮像・画像解析システムを披露する、日立製作所 研究開発グループ 基礎研究センタの久野範人氏(右)とHIROTSUバイオサイエンス代表取締役の広津崇亮氏
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 さまざまな臓器のがんを90%を超える感度で検出できることを、100検体ほどの検証で実証済み。症例数をさらに増やすべく「数十施設と共同研究の検討を進めている」(広津氏)という。

 N-NOSEの強みは「生物に根差しているので、高感度と低コストを両立できる」(広津氏)こと。ただし現在は検査を人手で行っており、「2027年には世界で13億人の利用を見込む」(同氏)というN-NOSEの普及・拡大には、検査の自動化が欠かせない。これにより検査コストを低減し、自由診療の枠組みで1回当たり数千円の利用者負担で検査できるようにすることを目指す。

 今回、日立製作所は日立健康保険組合と連携し、N-NOSEの自動化装置のプロトタイプを開発した。線虫の回収・洗浄、尿検体と線虫のプレートへの配置などを担う「自動分注システム」と、化学走性の撮像や画像解析・判定を担う「自動撮像・画像解析システム」から成る。

 自動撮像・画像解析システムについては、線虫の数を光の度合い(輝度)としてデータ化する方法を導入。従来のように線虫の数を目視で数えることなく、走性試験の結果を自動判別できるようにした。同システムでは、連続して撮影を行うことで線虫の「移動度」も判定可能。N-NOSEでは、線虫の状態などにより検査結果が不安定になる場合があるが、この移動度を検査品質の判定基準とすることで、検査品質を定量的に評価できるようになった。