産業技術総合研究所(産総研)とSCREENホールディングスは2017年3月3日、大阪大学と共同で、レーザー光の照射によりシリコン(Si)基板表面から発生するテラヘルツ波の波形を測定する技術と、コロナ放電によって表面電荷を制御する技術を組み合わせることで、太陽電池の表面電場を計測する手法を開発したと発表した(ニュースリリース)。

(左)絶縁膜の4カ所に吹き付けられたイオンの電荷密度(中心値)、(右)測定された電場の分布
(左)絶縁膜の4カ所に吹き付けられたイオンの電荷密度(中心値)、(右)測定された電場の分布
(図:産総研のプレスリリースより)

 従来の表面電場の測定法は、「試料を加工するために時間や手間がかかる」「絶縁膜の誘電率や厚さ、半導体のドープ濃度といった情報が必要」「空間分布を測定するのに不向き」などの問題があった。そのため、半導体に絶縁膜を付けた状態の試料の表面電場を非破壊的に計測し、その空間分布を可視化できる技術が求められていた。

 産総研とSCREENは、2015年5月にレーザーテラヘルツ放射顕微鏡の試作実証機を産総研の福島再生可能エネルギー研究所に設置。共同で結晶シリコン太陽電池の変換効率向上と信頼性の評価法の研究を開始し、これまでにレーザーテラヘルツ放射顕微鏡で半導体の内部電場を測定できることを示した。

 今回、絶縁膜上にコロナ放電でイオンを吹き付けた後、レーザーテラヘルツ放射顕微鏡でシリコン基板と絶縁膜の界面の電場を観測することで、絶縁膜の固定電荷を非破壊的に定量測定し、可視化することに成功した。一般的に結晶シリコン基板上に形成された絶縁膜(シリコン酸化膜)中には正または負の電荷(固定電荷)があり、それによってシリコン基板と絶縁膜の界面に電場が形成される。

 絶縁膜上にコロナ放電により固定電荷と反対の符号のイオンを吹き付けると、固定電荷が打ち消されてテラヘルツ波の振幅が減っていき、固定電荷とイオンの電荷が釣り合うと振幅が0になり、さらにイオンが増加すると波形が反転して振幅が増加する様子を観測できた。振幅0のときの吹き付けたイオンの電荷量(3×1011cm−2)が、試料の絶縁膜中の正の固定電荷の量となる。

 今回開発した技術は、試料に電極などを付ける加工が不要で、絶縁膜の厚さや性質、半導体のドープ濃度に関わらず固定電荷の量を非破壊・高空間分解能で定量的に測定できる。この値は、太陽電池の新しい表面パッシベーションプロセスを開発する際に重要な情報となる。また、半導体表面上に絶縁膜を形成する各種デバイス(LSIやパワーデバイスなど)の界面電荷の測定法としても期待される。

 今後、より変換効率の高い結晶シリコン太陽電池の開発を進めるとともに、半導体表面上に絶縁膜を形成する各種デバイスの固定電荷を測定する。また、レーザーテラヘルツ放射顕微鏡とコロナ放電装置とを組み合わせた固定電荷測定装置の実用化を目指す。今回の技術の詳細は、パシフィコ横浜で2017年3月14~17日に開催される「第64回応用物理学会春季学術講演会」で発表される。

レーザーテラヘルツ放射顕微鏡とコロナ放電装置の組み合わせによる表面電荷測定法の概要
レーザーテラヘルツ放射顕微鏡とコロナ放電装置の組み合わせによる表面電荷測定法の概要
(図:産総研のプレスリリースより)
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