今回の研究グループの1人であるWashington State University School of Mechanical and Materials Engineering and Department of Physics、Regents professorのKelvin Lynn氏
今回の研究グループの1人であるWashington State University School of Mechanical and Materials Engineering and Department of Physics、Regents professorのKelvin Lynn氏
写真:Washington State University
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 米Washington State University(WSU)と米University of Tennessee、および米エネルギー省傘下の研究機関であるNational Renewable Energy Laboratory(NREL)は、CdTe型太陽電池の性能向上で大きなブレークスルーがあったとし、論文を学術誌の「Nature Energy」に発表した。これまで0.9Vを超えたことがほとんどなかった開放電圧VOCの値で1V以上を実現した。今後、素子を最適化することで変換効率25%以上を期待でき、発電コストの大幅な低下が見込めるという。

 CdTe型太陽電池のこれまでの強みは、製造コストがSi結晶系太陽電池などに比べて低いことだった。米First Solar社が量産中で、2016年2月までの累計で直流ベースで定格6GWを製造している。First Solar社は研究開発品では最近になって変換効率を急激に高めており、2013年4月にモジュール効率で16.1%。2014年3月には同17.0%、セル変換効率で20.4%。2015年6月にはモジュール効率18.2%(開口部のみでは18.6%)、2016年2月23日にはセル変換効率で22.1%を達成したと発表した。製造コストが低いという強みに加えて、変換効率でも競合技術との差を埋めつつあるわけだ。

 それでも、CdTe型太陽電池には大きな課題があった。VOCの値がCdTeのバンドギャップ1.44eVから計算できる理論値よりも大きく低かった点だ。これまでのVOCの最高値は事実上0.9V。VOCの値が低いことで、実際の変換効率と理論的な性能の間にある大きなギャップを埋めきれていなかった。

 今回のVOCのポイントは、CdTe結晶の製法を大きく変えることで純度を大きく高めたことだという。WSUらの研究者は、CdSを成膜するCdTeの界面を、従来必須とされていた塩化カドミウム(CdCl2)雰囲気下で加熱する手法をやめ、代わりにCdTe結晶を溶融成長法で作製する手法に変えた。すると、不純物が大幅に減り、CdSとの格子定数の不整合による結晶欠陥も大きく低減した。こうした結果、CdTeとCdSの界面を流れる正孔の密度と寿命が数桁向上し、VOCの1V超えにつながったという。