日本科学技術連盟の「第101回品質管理シンポジウム」で基調講演する東レの田中千秋氏
日本科学技術連盟の「第101回品質管理シンポジウム」で基調講演する東レの田中千秋氏
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 「品質第一でこそ、製造業は勝てるのに、とんでもない状況になっている」。2015年12月4日、日本科学技術連盟が開催した「第101回品質管理シンポジウム」(12月3~5日に開催)の基調講演で、東レ顧問(元副社長兼最高技術責任者=CTO)の田中千秋氏はこう警鐘を鳴らした。

 耐震ゴムの性能偽装、エアバッグの大規模なリコール、自動車メーカーのディーゼル車の排ガス性能偽装などの問題が噴出している。価格競争が激化する中での利益優先や、サプライチェーン全体に責任を持つものづくりができていないこと、経営トップのものづくり現場に対する関心の低さなどに課題があるという。

 「より良い製品を造るためには執念をもって取り組まなければならない。現場技術者の育成、人づくりもおろそかになっている。技術者は常に良心を持ち、顧客価値を追求すべきだ」(田中氏)。

 家電・電子部品など、日本の製造業の国際競争力が低下している分野が目立つことも懸念する。例えば、リチウムイオン2次電池はかつて日本メーカーが高いシェアを誇ったが、今では韓国や中国のメーカーにシェアを奪われている。最終製品としての競争力が弱くなった結果、正極材、負極材、セパレーターなどの材料でも日本勢のシェアが低下しているという。

 「チームジャパンとしてサプライチェーン全体で最後のもの(完成品)まで強くする努力を続けないといけない」と田中氏は強調。さらに製造業のイノベーションのカギを握るのは、「垂直一体型連携」だとする。

 東レは「ユニクロ」のファーストリテイリングとも直接組み、「ヒートテック」などの高機能衣料向けに革新的な素材を供給している。米Boeing社とも直接組み、中型旅客機「787」向けに大量の炭素繊維強化樹脂(CFRP)を供給することで、航空機の機体構造を激変させた。