しかも、国内で自動化を進めることには、コスト競争力以外にも、メリットがあるとする。まずは、経営リスクが排除できる。国内においては、高齢化による高度技能を持つ労働者不足している。また少子化によって新人の採用も難しい。しかし、海外においても同様の問題を抱えることに加え、熟練労働者がすぐに転職してしまったり、労働争議が生じたりと、人件費以外のコストやリスクがある。国内回帰と自動化を進めればこうした問題を回避できる。

 加えて、生産拠点と研究開発拠点を密接に連携させ、知識集約が進められるという利点もある(図2)。海外で生産ラインを立ち上げる際、立ち上げに参加できる人間は限られる。しかし、国内に生産ラインを立ち上げる際は、より多くの人間を参加させることが可能だ。奥村氏によると「生産ラインの立ち上げに携わる人数がこれまでの50人規模から300人規模にまで増やすことができた」という。

 生産技術や開発、製造など様々な背景を持つ多くの人が生産ラインの立ち上げに関与することで、多くのノウハウが蓄積し、新しい技術も生まれやすくなる。ある生産ラインのノウハウを別の生産ラインにすぐに応用したり、生産技術や生産現場の意見を素早く開発に反映したりするように、生産拠点と研究開発拠点の連携を密にすることで得られる効果は大きい。

 今後は、内部集約によって蓄積した技術やノウハウのプラットホーム化や、ブラックボックス化を進め、海外の生産拠点の自動化や省人化を進める。また、同社が展開するロボティクス事業にも展開していく予定である。「例えば、自動検品のユニット、セル間の搬送用ロボットをそれぞれパッケージ化することが考えられる」(奥村氏)。以上のような理由から、セイコーエプソンは最先端技術を用いて生産する基幹部品を国内で生産することにしている。