(上)開発した複数周波数対応の送電コイル(中央)と、6.78MHz、200kHzそれぞれに対応した受電コイル。(下)それぞれの周波数に対応した受電コイルを1つずつ送電コイルに載せて給電している様子
(上)開発した複数周波数対応の送電コイル(中央)と、6.78MHz、200kHzそれぞれに対応した受電コイル。(下)それぞれの周波数に対応した受電コイルを1つずつ送電コイルに載せて給電している様子
送電コイルは、赤い配線を用いた巻き数の少ない6.78MHz用コイルと、オレンジの配線で巻き数の多い200kHz用コイルを1つの筐体に収めたものになっている。(写真:UC San Diego Jacobs School of Engineering)
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 米University of California(UC) San Diego校の研究者は、周波数が200kHzまたは6.78MHzと大きく異なるワイヤレス給電の規格に対応可能な送電コイルを開発した。論文は「IEEE Transactions on Power Electronics」に掲載された。2つの周波数を同時に利用して、電力を送り分けることができるという。

 現在、携帯端末向けのワイヤレス給電では「Qi」、「Powermat」、「Rezence」の3大規格が覇を争っており、互いに互換性がない。特に、QiやPowermetは周波数が200Hz前後、Rezenceは同6.78MHzを用いており、1つの送電コイルでは3規格すべてに対応することができない。UC San Diego,Department of Electrical and Computer Engineering,ProfessorのPatrick Mercier氏の研究チームは、これら3規格のいずれにも対応した“ユニバーサル無線充電器”の開発を目指して今回の技術を開発したという。

 開発した送電コイルは、外形寸法が12.5cm×8.9cmの長方形の中に、大小2つのコイルを収めたものになっている。大型コイルが周波数が6.78MHz向け。小型のコイルが200kHz向けだという。

 Mercier氏らによれば、両コイルは同時に駆動でき、6.78MHzと200kHzのそれぞれの周波数に対応した受電コイルに同時に電力を送ることができるという。

 工夫した点は、一方のコイルを用いたワイヤレス給電時に、もう一方のコイルが干渉し、損失とならないようフィルター回路を加えた点。実際に2つの周波数を用いて同時に送電テストをしたところ、どちらも送電効率は70~80%の間に収まったという。「複数規格、異なる種類の端末に同時給電しても、損失はそれほど大きくならないようにできることが分かった」(Mercier氏)。

 Mercier氏らは既に特許申請を済ましており、実用化に向けて協業するメーカーを募集しているという。

 ちなみに、ワイヤレス給電の規格Qiは、ソニーやパナソニック、東芝、ローム、など200社以上から成る業界団体の「Wireless Power Consortium(WPC)」が策定。Powermatは創立メーカーの米Powermat Technologies社に加えて米Broadcom社、京セラ、TDKなど約70社が参加する「Power Matters Alliance(PMA)」が策定した。一方、Rezenceは米Qualcomm社や韓国Samsung Electronics社などが主導し、160社超が傘下する「Alliance For Wireless Power(A4WP)」が策定した。QiとPowermatは現時点で電磁誘導方式が主要規格だが、Rezenceは磁界共鳴方式を主要規格としている。

 これらのうち、PMAとA4WPは2014年2月に互いの規格を共有することを発表。さらに、2015年6月には組織の統合を発表した。2015年内にも新しい業界団体名を発表するとしている。ただし、組織は統合しても、異なる技術に基づく規格間に互換性がないという課題は解決されていない。