Passatの外観
Passatの外観
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 ドイツVolkswagen(VW)社が、ディーゼルエンジンの排ガス規制の試験をクリアするために違法なソフトウエアを使っていた問題(関連記事)。米環境保護局(EPA)によると、排ガス測定試験のときにだけ使うアルゴリズムを搭載した。実際の走行時はEPAの規制「Tier2Bin5」や同国カリフォルニア州の「LEVII-ULEV」で決められた値に比べて、最大で40倍のNOx(窒素酸化物)を排出していた。VW社は、どんな違法ソフトを使って実現したのだろうか。

 違法ソフトを使っていたディーゼルエンジンが、「EA189」である。最新のものの一世代前のエンジンだ。このEA189を北米で搭載していたのが、「Jetta」(2009~2015年モデル)や「Passat」(2012~2015年モデル)などである。このうちJettaはエンジンの排ガス後処理装置にNOx吸蔵還元触媒(LNT)を、Passatは尿素SCR(選択還元触媒)を使う。

 LNTは排ガス内のNOxを吸蔵し、理論空燃比(ストイキ)燃焼などのときに還元して窒素(N2)に変えるもの。便利なものだが、還元するときに燃料を少し使うのが厄介な点だ。NOxを多く還元して排出量を減らそうとすると、燃費性能が悪化してしまうからだ。VW社の違法ソフトはおそらく、試験のときだけ燃料を多めに使ってNOxを多く還元する仕様にしていたと考えられる。通常走行のときは、還元用の燃料使用量を抑え、燃費性能を高める設定に変える。これで規制を“クリア”した上で、燃費性能という商品競争力を“高められる”わけだ。

 一方、尿素SCRは、尿素水を分解してアンモニアに変え、そのアンモニアとNOxを還元反応させて窒素と水にする。触媒以外に尿素水のタンクや添加装置が必要でシステムが複雑なため、大型車に使うことが多い。尿素SCRでNOxを減らすには、尿素水の添加頻度を高めねばならない。VW社は、試験のときだけ尿素水を積極的に使うソフトを作り、実走行時には使用量を抑える設定にしていた可能性がある。タンク内の尿素水を“節約”できて、継ぎ足す頻度を減らせる。

 VW社の違法ソフトの存在を発見したのが、米国West Virginia大学である。同大学教授のGregory Thompson氏らが、ディーゼル車の排ガスを調査したことで発覚した。同氏らは2014年5月、調査結果を発表したことに合わせて、EPAに報告したようだ。

 今回の排ガス規制不正問題の影響は、VW社にとどまらない可能性がある。2014年11月、ICCT(International Council on Clean Transportation)がディーゼル車15車種(6メーカー)の排ガスを測定した結果を発表している。15車種のうち、欧州の排ガス規制「Euro6」を実際の走行時にクリアしていたのは1車種だけだった。