日本メーカーの品質に対して黄信号が灯っているとの指摘が上がり始めた。では、どこまでの品質を目指したらよいのか。「技術者塾」では、連続講座「品質完璧マスターシリーズ」を企画した。講師は、デンソーの開発設計者を経て「品質リーダー」も務めたワールドテックの皆川一二氏。大手メーカーの中で「優秀である」と評価される技術者が身に付けている品質手法を網羅したものだ。皆川氏に、日本企業の品質が今どうなっているのか、技術者が身に付けるべき「品質力」とは何か、そして連続講座の内容などについて聞いた。

──これまで高品質をうたってきた日本メーカーの品質を不安視する声が、いろいろな所から聞こえてきます。日本メーカーの品質をどう見ていますか。

皆川氏:このまま放っておけば、日本メーカーの品質は「ある日突然崩壊してもおかしくない」といった状況です。まず、品質をつくりこむために必要な手法(品質手法)をきちんと学んでいない日本企業が増えています。加えて、品質手法を知っていたとしても、その手法の底流にある「本質的な考え」をしっかりと押さえていないケースが目に付きます。

 例えば、品質に関する不具合を未然に防止する手法に「DRBFM(Design Review Based on Failure Mode)」があります。トヨタ自動車が推奨している手法です。DRBFMではワークシートを作成します。「部品名/新規点・変更点と目的」や「役割(機能)」、「変更に関わる心配点(故障モード)」、「心配点はどんな場合に生じるか(影響)」、「心配点を除くためにどんな設計をしたか」、「処置」…といった項目を埋めていきます。

 問題は、これらの項目を記載して満足してしまうこと。つまり、ワークシートを作成して「終わりました」と安心してしまう技術者がいることなのです。DRBFMの本質はDR(デザインレビュー)です。ワークシートを作成してからDRのための議論をスタートさせることが主体なのです。なぜそうした設計をしたかについて徹底して議論することが大切なのに、「資料を作って終了」ということでは全く意味がありません。

 これと似たようなことが品質手法全般に言えます。これでは各品質手法を少々かじっていたとしても、設定や条件を少し変えると活用できない。応用が利かないのです。