人手不足が問題となっている日本の製造業。特に中小企業では若手を確保しにくくなる中で、ベテランの退職に伴う知見・ノウハウの喪失に危機感を募らせている。人手不足対策としてICTを活用したいとのニーズも大きいが、現実的には定年延長や再雇用といった対策にとどまっている。
そうした課題に対し、LIGHTz(本社茨城県つくば市)は、中小製造業が独自に専用の人工知能(AI)エンジンを構築することを提案する。ベテランの持つ知見・ノウハウを引き出して形式知化し、それをAIに組み込んでツール化しようというものだ。
人の思考パターンを教え込む
この取り組みでは、LIGHTzのAIエンジン「ORINAS」を活用する。ORINASは、「ビッグデータを基にAIを学ばせる機械学習などと異なり、人の頭の中にあるものをモデル化していくのが特徴」(LIGHTz事業企画部部長の堀越龍彦氏)だ。
具体的には、次のようなプロセスでベテランの思考をAIに組み込む。まずAI化したい業務について、ベテランの技術者・技能者へのヒアリングを実施。業務の流れやポイントを聞き出し、それを「設計構造化マトリクス」(DSM)*1手法などを用いて分析して、ベテランの思考プロセスを整理する。
次にその結果を「ブレインモデル」と呼ぶ独自のネットワーク図として可視化する(図1)。ブレインモデルは関連性の高い項目を結び付けて表したもので、そのつながりこそがベテランの思考プロセスを表している*2。このブレインモデルを教師データとして、ベテランの持つ知見や思考プロセスを模したAIを構築するのである(図2)。
ORINASで構築したAIはナレッジデータベース的な使い方ができる。例えば、不具合対策に関するAIなら、「締結部から油が漏れる」といった事象を入力すると、「締結部」「油」といったキーワードを抽出して、ブレインモデルを基に関連性が強いキーワード(例えば「パッキン」「膨潤」など)をひも付ける。その上で、それらキーワードを基に不具合データベースなどを検索して関連度が高い原因や対策をリストアップして提示する。ユーザーがその中から原因に近いと思われるものを選ぶと、AIがさらにその関連情報を提示。こうしてドリルダウンしていくことで、原因や対策に対する気付きを得られる。
同時に、この検索過程をフィードバックすることで、ネットワークのつながりや関連キーワードを更新して、AIとしての学習も進む。
なお、ORINASは類義語の辞書データベースや、ブレインモデルの推論結果を自然言語でアウトプットする仕組みを備えており、分からないこと、気になること、トラブル事象などを入力すると、人と会話するように回答を返してくれるという*3。