写真:Getty Images
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 次世代移動通信の5Gでは、通信の大容量化やシステムの柔軟性を高める方法として、論理的なセルと物理的な基地局のアンテナ位置を分離する「セルの仮想化」や、多数のアンテナ素子を並べた超多素子アンテナの活用が検討されている。5Gに向けた移動通信システムを開発しているNECの丸田氏が、5Gの要素技術や同社の研究成果を解説する。(本誌)

 次世代(5G)の移動通信は、エンドユーザーに対してより快適な無線通信環境を提供するだけでなく、重要な社会インフラとして幅広い分野のアプリケーションを支え、新たな社会価値を創造することが期待されている。本稿では、5Gの無線ネットワークに対する超多素子アンテナの適用についての検討と、我々が5G向けとして取り組んだ超多素子アンテナの試作およびビーム形成、ビーム多重の基本動作検証を紹介する。

 現在の移動通信/モバイルRAN(Mobile Radio Access Network)など、いわゆる携帯電話の始まりは1980年代の自動車電話にさかのぼる。その頃の自動車電話システムは、アナログ信号処理を中心とした周波数分割多元接続方式(FDMA)をベースとしていた。それ以降、移動通信は、1990年代の第2世代である時分割多元接続方式(TDMA)、2000年代の第3世代である符号分割多元接続方式(CDMA)といったように、およそ10年程度の周期で新しい多元接続技術の導入を伴う世代交代を続け、現在は第4世代(4th Generation:4G)として直交周波数分割多元接続(OFDM)方式のLTE/LTE-Aが世界的に普及しつつある。また、その一方で2020年代を見据えた5Gについての議論が始まっている(図1)。

図1 5Gの標準化に向けた議論が始まる
図1 5Gの標準化に向けた議論が始まる
移動通信の歴史。第4世代(4G)の「LTE/LTE-Advanced」が世界的に普及しつつある一方で、2020年代を見据えた5Gの標準化に向けた議論が始まっている。
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