九州大学と新日鉄住金は、高張力鋼板の一つであるDP(Dual Phase)鋼が壊れる過程を明らかにした。硬いマルテンサイトの相から壊れることが分かった。今後は、マルテンサイトに焦点を当てて改良することで、コストを抑えながら引っ張り強さと伸びを大きくできる可能性がある。
DP鋼は、軟らかいフェライトと硬いマルテンサイトの2相から主に成る(図1)。500M~1000MPaの大きな引っ張り強さと、10~30%の全伸びを両立する特徴がある(図2)。1980年代からクルマへの導入が進み、近年はボディーや骨格の約3割に使う主力鋼板だ。
長年の実績があるDP鋼だが、フェライトとマルテンサイトの2相が散らばる複雑な組織構造のため、これまで壊れる過程が分かっていなかった。九州大学と新日鉄住金は、理化学研究所の大型放射光施設「SPring-8」を使うことで、DP鋼の硬いマルテンサイトに生じた空隙が広がって壊れることを実験で明らかにした。
DP鋼をゆっくり引っ張っていくと、初期段階では軟らかいフェライトや、フェライトとマルテンサイトの界面などに空隙が発生する。かねて、この空隙をDP鋼が壊れる原因と見る向きがあった。
だが実際に壊れる原因となっていたのは、フェライトなどから遅れて発生するマルテンサイトの空隙が、フェライトや界面の空隙の成長を追い越して広がることだった(図3)。軟らかいフェライトが大きく伸びて、マルテンサイトを強く引っ張るような形になることで同相が壊れる。