三菱電機はクルマの電子ミラーで100m後方の車両を高精度に認識できる技術を開発した。高速道路などで車線変更する際に後方から近づいてくる車両を認識し、衝突の危険性がある場合には警告を出せる。100mという距離は「業界最高水準」(同社)とする。

 電子ミラーは、自動車のバックミラーやサイドミラーをカメラとモニターで代替するシステムを指す。2016年6月に欧州や日本で認可され、2018年から本格的な実用化が期待されている。三菱電機は電子ミラーに画像認識技術を組み合わせることで、車線変更時に警告を発するなど、システムの付加価値を高めたい考えだ。

 こうした用途では、どこまで遠くの車両を正確に検出できるかが重要になる。後方から接近する車両の相対速度が50km/hの場合、後方車両との距離が30mの場合はわずか2秒で到達してしまうが、100mの距離があれば7秒の時間的な余裕がある(図1)。ただ、電子ミラーは広い範囲を確認できるように広角のカメラを使うことが多いため、「遠方の車両が小さく映ってしまい、画像認識が難しい」と、情報技術総合研究所知能情報処理技術部長の三嶋英俊氏は言う。

図1 従来の電子ミラーは遠方車両の認識に課題
図1 従来の電子ミラーは遠方車両の認識に課題
(a)高速道路などで車線変更する際は、電子ミラーで後続の遠方車両を認識する必要がある。(b)電子ミラーの映像は画角が広く、遠方車両の画素数が少なくなるため、認識することが難しい。三菱電機の資料を基に本誌が作成。
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 そこで、同社は人間の脳の視覚情報処理の仕組みを応用した「視覚認知モデル」と呼ぶ独自技術を利用した。人間の視覚は目立つ物体に対して高い感度を持つ。それと同じように、電子ミラーの画像の中から遠方にある特徴的な部分を抽出できるようにした(図2)。具体的には、「画像の中の遠方の領域から、輪郭線の向きやコントラストの変化が大きい部分を見つけ出す」(同氏)という。

図2 脳の視覚情報処理の仕組みを応用<
図2 脳の視覚情報処理の仕組みを応用<
脳の仕組みを応用した「視覚認知モデル」を使い、電子ミラーの遠方映像から物体領域を検出する。その物体領域に対してディープ・ラーニング・ベースの推論処理を実行し、車両を認識する。三菱電機の資料を基に本誌が作成。
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 特徴的な部分をいくつか抽出すると、それらに対して深層学習(ディープラーニング)を使った推論処理を実行し、それが乗用車なのか、トラックなのかを識別する注)。車両でないと判断した場合には無視する。処理を実行する領域を絞り込むことで演算量を削減し、安価なマイコンでも1フレーム(約30ms)ごとに処理できるようにした。今回はルネサスエレクトロニクスのマイコン「R-Car H3」を使ったデモを見せたが、これより性能が低く安価なマイコンでも実行できるという。

注)ディープラーニングを使った処理には2016年2月に発表した同社のAI技術を活用した。同社はこうしたAI技術に「Maisart(Mitsubishi Electric's AI creates State-of-the-ART in technology、マイサート)と呼ぶブランド名を付けている。