「トヨタ流人づくり 実践編 あなたの悩みに答えます」では、日本メーカーの管理者や社員が抱える悩みに関して、トヨタ自動車流の解決方法を回答します。回答者は、同社で長年生産技術部門の管理者として多数のメンバーを導き、その後、全社を対象とする人材育成業務にも携わった経歴を持つ肌附安明氏。自身の経験はもちろん、優れた管理手腕を発揮した他の管理者の事例を盛り込みながら、トヨタ流のマネジメント方法を紹介します。
悩み
設計開発部門のマネジメント職に就いており、20人ほどの部下を抱えています。マネジメントを担うに当たって先輩にアドバイスを求めたところ、「部下との間に信頼関係を築くことが最も大切だ」と聞きました。確かに、私たちの仕事はチームワークが必要ですから、信頼関係がなければ成り立ちません。しかし、部下から信頼されるために何を心掛けるとよいのでしょうか。

編集部: 信頼関係はビジネスの大前提。顧客との間ではもちろん、社内の各部門や部署、それぞれのチームの間でも同様です。管理者を務める上司と部下との間でも、やはり、信頼関係が最も大切だと考える人は多いと思います。しかし、確かに上司になったからといって、自動的に部下から信頼されるというわけではないと思います。質問者の方は、トヨタ自動車の管理者の場合はどのようにしているのか、ヒントにしたいようです。

肌附氏― トヨタ自動車の社内にマニュアルのように明文化されたものはありません。しかし、優秀な管理者と評される人たちの言動を分析すると、部下からの信頼が厚い上司にはいくつかの特徴が見られます。すなわち、それらが部下から信頼される上司の条件と言えるでしょう。

 その条件の1つは、ぶれずに的確な行動を取ることです。これは難題に直面したときにも変わりません。具体的には、まず、問題が発生した際に、的確でタイムリーな判断と決断を下す必要があります。対策を実行するときには迷いやぶれのない指示や命令を与え、かつ壁や障害になる全てのものを打ち破って進めていく行動力が大切です。そして、それらに対する全ての責任を取るという姿勢が何よりも大切になります。

 トヨタ自動車では役員や管理者、リーダーが交代しても、ものづくりに関する思想や考え方、基本方針などは不変で、社員の進む方向は一貫してぶれない体質になっていることが大きな特徴です。上司が代わっても、会社の基本方針に関しては言うことがそれほど大きくは変わりません。だからこそ、部下は動揺せずに安心して仕事に打ち込めるのです。このことが部下からの信頼を育む面もあると思います。

 よく、新たに管理者のポストに就く人が前任者と全く違う考え方や指示、命令を出してしまう企業があります。新しい上司が「自分の色」を出して実績にしたいと考えるからでしょう。しかし、トヨタ自動車の管理者の多くはそうしたスタンドプレー的な行動を示しません。なぜなら、トヨタ自動車では「全員参加」で実績を出すという考え方が定着しており、誰か1人のアイデアだけで優れた実績を得られるという考えを持たないからです。仮にそうした上司であれば、部下からの信頼を得ることは難しいと思います。

編集部: ぶれないことが信頼される上司になるための大前提となるわけですね。他にはどのような条件があるのでしょうか。