電動車両モーター用の磁石に重希土類元素を使わないで済めばコストを下げられ、磁石材料を安定調達しやすくなる。一方、耐熱性の指標である保磁力を下げないための改良が必要になる。そのポイントについて、大同特殊鋼とダイドー電子が解説する。 (本誌)

 ハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)などの電動車両の駆動用モーターには現在、Nd-Fe-B(ネオジム-鉄-ホウ素)系磁石(ネオジム磁石)が使われている。同磁石は希土類磁石の一種で、1982年に発明された(1)

 希土類元素とは、元素周期律表の「ランタノイド」に含まれる元素に、Sc(スカンジウム)とY(イットリウム)を加えた17元素のことである。このうち、ネオジム磁石に使用されるのは、主に軽希土類元素に分類されるNd、Pr(プラセオジム)と、重希土類元素に分類されるDy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)である。

 ネオジム磁石は現時点で、最も強い磁力を持つため、モーターの高出力化・小型化によるエネルギー消費量の削減に大きく寄与している(図1)。自動車分野ではHEVやEV、プラグインハイブリッド車(PHEV)といった電動車両の実用化に伴い、その需要は年を追うごとに増えている。

図1 永久磁石の種類と磁力の向上
図1 永久磁石の種類と磁力の向上
ネオジム磁石は、これまで発明された永久磁石の中で磁力が最も強い。
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 ネオジム磁石を電動車両の駆動用モーターに使う場合、高い残留磁束密度(Br)に加え、モーターの使用環境に応じた高い保磁力(Hcj)が要求される。残留磁束密度と保磁力は磁石の特性を示す主要な指標で、前者は単位体積当たりの磁力を、後者は高温・高反磁界(磁石の磁化方向と反対向きの磁界)の下で磁力を保つ強さ(耐熱性)を表す。