ここまで進んでいるとは思いませんでした。今号のInnovatorに登場する東京女子医科大学の村垣善浩教授らは、あらゆる医療機器がネットワークにつながる次世代の手術室を開発しています(記事)。「Industry 4.0」を彷彿とさせる「Medicine 4.0」というキャッチフレーズから少し先のビジョンかと早合点していたら、今年度末にも最初のプロトタイプが完成するとのこと。ほかにも実用化に向けた手を次々に打たれています。詳しくは本誌の記事と併せて、Webに掲載したインタビューの完全版もお読みください(記事)。

 スパコンの省エネランキング「Green500」で世界1~3位を独占したPEZYグループにも驚かされました(記事)。同グループは、スパコンの開発に着手して1年半ほどの新進気鋭のベンチャー企業。現状で動くソフトウエアはランキング用のベンチマークくらいですが、今後の発展に期待せずにはいられません。

 突然現れたかに見えるこれらの成果は、実は長年の蓄積の末に生まれた果実です。村垣教授らの取り組みの源流をたどると、1990年代後半に着手した「術中MRI」に行き着きます。PEZYグループを率いる齊藤元章氏は、1997年に立ち上げたシリコンバレーの医療機器ベンチャーで画像処理ICを開発してきた人物です。両者は、それなりの期間を費やして、自らの構想を1つひとつ現実にして来たわけです。

 小脳の機能を備えるAIの開発などでPEZYグループと提携したCYBERDYNEの山海嘉之CEOも同様です。同社のロボットスーツ「HAL医療用(下肢タイプ)」は、今年3月、新医療機器としての薬事承認申請にこぎつけました。山海氏が原理を考え始めたのは1991年といいますから、ほぼ四半世紀をかけて1つのゴールに近づいた格好です。

 大企業と比べて動きが速いとされるベンチャー企業でさえ、全く新しい製品を認めてもらうには、これだけの時間が必要なのです。医療機器ならではの苦労はもとより、かつてないものを世に問うことの難しさゆえでしょう。

 今号の特集で取り上げたように、電子産業は新たな時代のとば口にいます(記事)。新産業の芽が数あることは、読者も指摘する通りです。ただし、先駆者の前に苦難の道が待ち受けるのもまた事実。誰よりも先に市場を切り開くには、どんなに時間が掛かっても当初の夢を見続ける覚悟が欠かせないのかもしれません。