激しい低燃費競争を繰り広げる自動車業界。パワートレーンの電動化以上に期待されているのが、軽量化技術だ。軽くすれば燃料消費量を抑えられるだけではなく、走行性能や操縦安定性も高まる。おまけに、材料の使用量が減ってコストも削減できる。そのため、部品メーカーや材料メーカーの多くが軽量化技術の開発に力を入れており、すぐにでも活用できる技術が続々誕生している。今目立つのは、樹脂で軽くする技術、異種材料接合で軽くする技術、そして加工法で軽くする技術である。

樹脂で軽く

「シエンタ」の外装品を35%軽量化

 トヨタ自動車のミニバン「シエンタ」。外装品である「スライディングドアレール・カバー」は樹脂化により大幅な軽量化を実現した(図1)。この樹脂材料は、カネカが開発したポリマーアロイ「JP-F」シリーズだ。ポリカーボネート(PC)とポリエチレンテレフタレート(PET)のポリマーアロイ(PC/PETアロイ)で、クルマの外装品に適した樹脂である。

図1●樹脂化で軽くした自動車の外装品
図1●樹脂化で軽くした自動車の外装品
トヨタ自動車のミニバン「シエンタ」の「スライディングドアレール・カバー」で、PC/PETアロイで射出成形して造る(a)。(b)後方から見た外観デザインの特徴。側面後方が湾曲しながら上端面は折れ曲がるという複雑な形状をしている。
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 新しいPC/PETアロイは無機系フィラーを21質量%含有し、さらに配合剤を加えた。これにより性能を高めた。まず、剛性が高い。曲げ弾性率は6300MPaと従来の6000MPaから引き上げ、自動車の外装品として耐える強度・剛性を実現した。

 続いて、線膨張係数が従来よりも小さく、鋼(鉄)のそれに近づけた。温度変化による反りや収縮が少ないため、優れた外観デザイン性を備える。加えて、溶融時の流動性が高いため、大型成形品や薄肉成形品にも対応できる。

 シエンタのスライディングドアレール・カバーは、側面後方が湾曲しながら上端面は折れ曲がるという複雑な形状のため、鋼板をプレス加工する方法では成形が難しいという。そのため、トヨタ自動車は成形性の高い、この新しいPC/PETアロイを採用したという。

 肉厚は3.0mmと、厚さが0.8mmの従来の鋼板製よりも厚くして強度や剛性を維持した。新しいPC/PETアロイへの置き換えにより、約35%の軽量化を実現した。