エンジンやブレーキ、ステアリングを遠隔で自在に操れる衝撃の事実が明らかになった。米FCA US社は、車両のリコールに追い込まれる。今後、他社も同じ状況に陥る可能性がある。クルマをハッキングできるという“成果”が、次々と発覚しているからだ。世界の自動車メーカーは、総力を挙げて対策に乗り出した。
2015年7月、米FCA US社(旧Chrysler社)が米運輸省道路交通安全局(NHTSA)に届け出た、Jeepブランド「Cherokee」などの合計140万台に達するリコール。遠隔でハッキングし、ステアリングやブレーキなどを自在に操れることが原因だと分かると、自動車業界に激震が走った(図1)。クルマへの“ハック”によって初めて、リコールという“実害”が生じたからだ。
世界の自動車メーカーはこれまで、クルマへのハッキングを「将来のリスク」とみなしていた。Jeep車のリコールによって、今や「対策しないことは許されない」(トヨタ自動車電子プラットフォーム開発部第51電子開発室グループ長の平林幸治氏)という現実を、否応なく突きつけられた。
今後、ハッキング対策のない自動車は、販売できなくなるかもしれない。NHTSAはJeep車のリコールを受けて、「今後の前例になる」と異例の声明を発表。ハッキングされる可能性がある車両は、リコールで対応していく考えを示唆した。
さらに米上院議員のEd Markey氏が、「Security and Privacy in Your Car(SPY Car)」法案をJeep車のリコールに合わせて提出。成立すれば、対策がない車両を米国で販売した自動車メーカーは、法律で罰せられる可能性がある。