ホンダは2017年9月、軽自動車「N-BOX」を全面改良して発売した(図1)。直列3気筒ガソリンエンジンを新設計し、燃費と加速性能を高めた。気筒のボア(内径)とストローク(行程)の比率が1.29と極めて大きいロングストローク仕様にした(図2)。量産機で1.3に迫るボアストローク比は世界最高水準といえる。

図1 新型「N-BOX」
図1 新型「N-BOX」
エンジンを刷新し、加速性能と燃費性能の両立を図った。
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図2 ロングストローク化した新エンジン
図2 ロングストローク化した新エンジン
燃費は自然吸気エンジンが27.0km/L、ターボが25.6km/L。
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 新エンジンの最大熱効率は37~38%とみられる。自然吸気(NA)エンジン車の燃費は先代の25.6km/Lから27.0km/Lに、ターボエンジン車は23.8km/Lから25.6km/Lに改善した。

 新エンジン「S07B」のボア×ストロークは、60.0×77.6mm。従来機「S07A」は64.0×68.2mmで、ボアストローク比は1.07だった。ロングストローク化は最近よくある手法だが、せいぜい1.1程度まで。ホンダは1.3に迫り、他社を大きく上回る。

 ホンダが1.29までロングストローク化したのは、気筒内の気流の縦渦(タンブル)を強めるためだ(図3)。燃料と空気がよく混ざり、燃焼速度を高められる。従来機とエンジン回転数が同じとき、ロングストロークにした気筒の方がピストン速度が上がる。ピストンが速く動くことで気流を速くして、タンブルを強められる。加えてロングストロークにすると、1回の燃焼におけるピストンの仕事量を増やせる。熱効率を高めやすい。

図3 新エンジンの構造
図3 新エンジンの構造
(a)タンブル(縦渦)が発生しやすい構造にした。ボア×ストロークは従来の64.0×68.2mmから、60.0×77.6mmにした。ボアを短くしたことで燃焼室の表面積が減り、熱効率も高まった。(b)鏡面バルブを採用。吸気時にバルブの熱が空気に伝わりにくくする。(c)燃焼室の点火プラグから端までの距離を短くした。
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 ボアを短くしたことで燃焼室の表面積を縮小し、冷却損失を低減した。

図4 自然吸気エンジンは吸気側にVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)を採用
図4 自然吸気エンジンは吸気側にVTEC(可変バルブタイミング・リフト機構)を採用
吸気効率を高めて、加速性能と燃費性能の両立を図った。
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 吸気バルブの燃焼室側の面を、鏡面処理した。面を平らにすることで、吸気時に吸い込む空気との接触面積を最小化できる。高温のバルブから空気への熱伝導を抑制する。さらにピストン頭部に半球状のくぼみを設けることで、タンブル流を保持しながら点火プラグの近くに混合気を集め、安定した急速燃焼を実現した。ボアを短くしたことで、点火プラグを固定するねじも小さいものに変更した。

 一方でロングストロークにすると、エンジン回転数を上げにくくなる。出力は下がりがちだ。ホンダは、吸気側に可変バルブタイミング・リフト機構「VTEC」を軽自動車のエンジンとして初めて採用した(図4)。出力の低下を抑えられる。エンジン回転数が約4500rpm以上の領域で吸気弁のリフト量を増やして、空気を多く入れる。リフト量は9.1mm。従来機は、可変バルブタイミング機構「VTC」を使っていた。