電気自動車(EV)への注力を決めたドイツのVolkswagen(VW)社とDaimler社。パリモーターショーでは、揃ってEV専用の新プラットフォームを披露した。共通点は、500~600km走行できるようにリチウムイオン電池を床下に敷き詰めたところ。安全性を担保しつつコストを抑え、2020年ごろまでに実用化していく。

 目指すのは歴史的名車と比肩するEV──。VW社はEVのコンセプト車「I.D.」を、70年前に登場した「ビートル」、そして40年前に販売が始まった「ゴルフ」に次ぐ「革新的なモデル」(同社)と位置付ける。

 VW社は、電動車両を幅広い車種で展開可能にするためのプラットフォームを開発中だ。「Modular Electric Drive Kit(MEB)」と呼ぶ電動化ツールキットがそれで、2020年から投入するEVから適用していく。

電池コストは50万~70万円か

 今回発表したI.D.もMEBを採用している。最大の特徴は、リチウムイオン電池を床下全面に配置し、1回の充電で400~600km走行できるようにした点である(図1)。VW社でMEB開発を担当していた役員によれば、「MEBの開発は、電池を床下全面に敷き詰めることを最初に決めた」という。

図1 「I.D.」の部品配置
図1 「I.D.」の部品配置
VW社が2020年に投入するEVでは、最大600km走行できるようにリチウムイオン電池を床下全面に配置する方針である。前後の質量配分は48:52。
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 モーターの最高出力は125kW。インバーターや減速機などと一体化した電気駆動システムとし、後輪側に配置した。EVの専用プラットフォームらしい、シンプル部品構成だ。前輪側から大型部品をなくせたことで、広い室内空間を確保できたという。

 実用化に向けた課題は、やはり電池のコストだろう。2017年にVW社が発売する改良新型EV「e-ゴルフ」は、NEDC(新欧州ドライビングサイクル)モードで300km走行できるようにする。搭載する電池の容量は35.8kWhで、パナソニック製とみられる。

 600km走行させるためには、単純計算だが約70kWhの電池が必要となる。2020年の発売時期における車載電池セル最安値で100ドル(1ドル=105円換算で1万500円)/kWhと推定されている。このため、電池だけで7000ドル(73万5000円)となる。300万円の車両に、電池だけで70万円のコストはバランスが悪く、モーターやインバーターなどのコストも考えるとその実現は容易ではない。400kmの走行距離であれば50万円を切る水準になるので、まだ現実的かもしれない。