新技術の実用化を牽引し普及させるテクノロジードライバー。近年スマートフォンが果たしてきたこの役割を、今後は次世代AR HMD/ARグラスが担う。具体的には、周囲の3次元空間を動的に把握する技術、コントラスト比や輝度、精細度などが非常に高いマイクロディスプレー、高いエネルギー密度のSi系負極電池などの開発がAR 向けに加速し始めた。

 「もうここまで来ているのか。ARで研究することはあまり残されていないのではないか」─。米Microsoft社のAR HMD「HoloLens」の完成度の高さは、ARの研究者に衝撃を与えた。こんな弱音が出てきたほどだ。

 AR(拡張現実感)技術は2008~2009年ごろに最初のブームが起こり、当時のスマートフォンなどで、マーカーを使ったARや、吹き出しなどを映像の中に浮遊させるアプリ「セカイカメラ」などが流行した。ところが、技術的には課題が山積していた。例えば、マーカーの煩わしさや見栄えの悪さ、さらには重畳映像の奥行き方向の表示位置を正確には制御できなかったことだ。

マーカー=ARの重畳映像の表示位置を指定するための目印。2次元バーコードが用いられることが多い。

 加えて、当時のAR HMDの多くは、視野角が20度以下と狭く、しかも映像は暗く日中は見えにくい場合が多かった。2012~2014年に話題になった米Google社の「Google Glass」もこうした課題を抱えており、「AR HMDとしては完成度が低かった」(あるARグラスのメーカー)という。

視野角(Field of View:FOV)=ARやVRを利用するユーザーの視野中に表示できる映像の角度上の広がり。例えば、視野角が24度であるということは、2.5m先に42型のディスプレーがある場合と同等になる。人間の肉眼の視野角は約188度とされる。

 マーカーレスのARを実現するためにまず開発が進んだのは、さまざまな物体の形状や映像データに対する画像認識や物体認識の技術の改善である。この点では、KDDI総合研究所が開発で先行し、実用化も始まっている(別掲の「特定の商品や大量画像の認識でKDDI総合研究所が先行」参照)。

マーカーレス=あからさまにはマーカーを使わないARの技術。