NAVIGATOR'S EYE
今回の筆者は、技術系人材の育成や海外の教育制度の実態について多くの調査を手掛けられてきた、日鉄住金総研客員研究主幹の山藤康夫氏です。「Industrie 4.0」(インダストリー4.0)をはじめとするものづくりの在り方や産業界ニーズの変化に応えるべく、ドイツの教育制度がどう変わろうとしているのかについて、2回にわたって詳しくご紹介いただきます。

 今、世界の関心は製造業に向いている。それは、製造業がパラダイムシフトを起こしつつあるからだ。製造業は、ハードウエア/ソフトウエア両面の技術進歩によって、新興国のみならず先進国でも経済成長や競争力の源泉として再び注目されている。

 ただし、世界が期待しているのは、従来型の製造業と大きく様相の異なる「新しい製造業」である。従来型の製造業では、自然科学に基づいた機械工学や電気工学などが主役だった。新しい製造業では、これまで脇役にとどまっていたシステム、ソフト、コンピューターなどが主役の仲間入りをする。情報通信技術(ICT)を駆使し、ものづくりにサービスを融合した姿こそが新しい製造業に他ならない。

 具体的には、製造業にどのような変化が起きるのか。設計/生産プロセスについていえば、3Dプリンターなどの革新的な製造手段によって、複雑な形状を短期間で造れる。センサーやネットワークによって、従来は見えていなかったプロセスが可視化される。サイバー空間上で設計されたデジタルデータが、即座にリアルの世界に流れ、生産され、製品として出荷される。生産プロセスは、製品ごとに最適化される。

 設計/生産プロセス以外でもさまざまな進化が見込める。例えば、機械設備に予防保全が適用され、ダウンすることなく稼働し続ける。部品交換のタイミングは、定期的な交換から本当に交換すべき時期に変わる。販売/納入した製品の実際の使い方が可視化され、もっと利便性の高い新製品を投入できる。1人ひとりの好みや使い方に合わせた製品/サービスの提供が可能になる。

 このように、新しい製造業への期待は大きい。問題は、そのための人材をどう確保するかということである。短期的には、各分野に精通した人材を外部から雇い入れたり、業務ごとに外注したりするのだろう。だが、長期的には人材を自前で開発・育成すべく、企業や国家単位で教育の在り方を見直さなければならない。新しい時代には、新しい教育が必要になる。

 そこで注目したいのは、「Industrie 4.0」(以下、インダストリー4.0)という新しい製造業の構想を世界に先駆けて打ち出したドイツである。もともとドイツでは、産業界とそのニーズに応えようとする教育界がタッグを組んで、製造業を支えるユニークな教育制度を構築してきた。現在は、新しい製造業の実現に向けてその教育制度を改善する動きが見られる*1。そこで本稿では、ドイツが次世代を担う人材をどう育てようとしているのか、2回にわたって紹介していく。

*1 ドイツではインダストリー4.0の推進に当たってさまざまなワーキンググループ(WG)を立ち上げており、その1つに「人事・労働WG」がある。現状では「ワークライフバランスの実現を目指す」という構想段階にとどまっているものの、新しい教育の在り方を模索していることがうかがえる。