デバイスの高性能化技術への開発投資が事業の成功をもたらす。エレクトロニクス業界での成功モデルをいまだに継続しているのがソニーのイメージセンサー事業だ。高感度化しやすいBSI(裏面照射)型や高速化・小型化に向く積層型をいち早く製品化してきた。しかし、王者ソニーの技術の礎を覆しかねない変化が始まっている。

 ソニーの電子デバイス事業を支えているイメージセンサー(図1)。「(他社に対して)2~3年は先行している」(代表執行役社長兼CEOの平井一夫氏)技術力で、競合メーカーを圧倒する販売額を誇る。

図1 “王者”ソニーを脅かす動きが相次ぐ
図1 “王者”ソニーを脅かす動きが相次ぐ
(a)の左はイメージセンサーの2014年における売上高ベースの世界市場シェア。中央はソニーの電子デバイス事業の売上高の内訳、右はイメージセンサーの生産能力(いずれも2015年5月時点)。2015年4月~2016年3月の同社のイメージセンサー工場への投資額は合計2100億円に達する。(b)は、イメージセンサーやカメラの業界を今後見舞う大きな変化。(図:(a)の左はIHSテクノロジー、中央と右はソニーの図に本誌が加筆)
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 同社が、イメージセンサーで“王者”の座を維持できているのは、市場価値につながる高画質の製品を提供できているからだ。要となっているのが、2つの製造技術である。2006年に民生業界で先駆けて事業化した裏面照射(BSI:Back Side Illumination)技術と、2012年に製品に採用した積層技術だ。裏面照射や積層は、素子を形成したシリコン(Si)ウエハーを切削などによって精度良く薄くし、別のウエハーと正確に張り合わせる技術である。

 いずれも「ノウハウの固まりの技術」(ソニーセミコンダクタソリューションズ イメージングシステム事業部 IS事業戦略部 統括部長の大場重生氏)という。その結果、画素ピッチを小さくする微細化が停滞しても、裏面照射や積層の製造ノウハウで競争力を維持できている。画素ピッチは2013年までに製品レベルで1μm前後に達し、一般的な光学部材を使った場合の可視光での回折限界に達している。ソニーが1μmレベルまでの微細化で先行できても次の手で差異化することは難しくなっていたはずだ。

 同社は、ノウハウの流出をイメージセンサー用のウエハーを自社工場で量産するなどして防いできた。イメージセンサー業界に詳しい産業アナリストは「ソニーが強い状況は当面は変わらない」(IHSグローバル IHSテクノロジー 主席アナリストの李根秀氏)と断言する。