「日経エレクトロニクス」2017年5月号のFundamentals「クルマを進化させる電源技術[第1回] Liイオン電池やキャパシターを用いた、HEVやEVの減速回生システム」を2回に分けて先行公開した記事の前編です。

現代の自動車において電源システムは重要な技術要素である。特にハイブリッド車(HEV)や電気自動車(EV)では、エンジンに比肩する「クルマの心臓部」となる。今後、一層の高効率化・高度化が求められる電源システムについて、基礎から先端技術までを俯瞰する。今回はその第1回として、HEV で注目される2つの技術を紹介する。

 ハイブリッド車(HEV:Hybrid Electric Vehicle)とは、電気モーターとガソリンエンジンを併用する自動車を指す。電気モーターの役割やエネルギー消費に対する比率により、大きく3つに分類できる。(1)減速エネルギー回生システム、(2)マイルドハイブリッド、(3)ストロングハイブリッド(フルハイブリッドと呼ばれることもある)である。それぞれコストと燃費改善効果に違いがある(図1)。

図1 ハイブリッドシステムの種類
図1 ハイブリッドシステムの種類
コストと燃費改善効果から見たハイブリッドシステムの3分類。
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 (1)減速エネルギー回生システムは、回生による充電を行うが、駆動はせず、電装品の電源とすることで発電負荷だけを減らす技術である。スズキの「エネチャージ」やマツダの「i-ELOOP」などのシステムがある。

 (2)マイルドハイブリッドは、スズキが「ワゴンR」や「スイフト」などに採用したシステムや欧州発の48Vシステムなどが当てはまる。減速時などに回生を行って電池を充電する。その電力により加速時にモーターを駆動することで、エンジン負担を低減して燃費向上を実現する。この燃費向上は、環境負荷低減とほぼ同義とみることができる。モーターのみでは基本的に走行できないが、駆動力の一部を電力で発生させる。

回生=機器で発生する余剰なエネルギーを回収して再利用すること。車両技術では一般に、減速時に減少する運動エネルギーで発電機を駆動して電力を発生させることを指す。電力に変換される分だけ運動エネルギーの減少も大きくなるため、ブレーキとしての制動効果も発生する。これを回生ブレーキと呼ぶ。回生の効果的な活用はエネルギー効率向上につながる。

 (3)ストロングハイブリッドは、トヨタ自動車の「プリウス」などで採用されているシステムである。短距離であれば自走できる大型モーターを搭載する。ガソリンエンジンを搭載しているが、走行シーンによって電気自動車(EV:Electric Vehicle)にもなる。

 なお、最近は上記の分類に属さないハイブリッド方式も登場している。例えば、三菱自動車の「アウトランダーPHEV」(PHEVはPlug-in Hybrid Electric Vehicleの意味)はモーター走行を基本としている。市街地では主にバッテリー(電池)やエンジンで発電された電力によりモーターで走行し、高速走行時のみエンジンを主体としてモーターがアシストしながら走行する。日産自動車の「ノートe-POWER」は、エンジンを完全に発電機として用いて、モーターのみで走行する。

 本稿では、上述の3分類のうち、(1)減速エネルギー回生システムについて、スズキのエネチャージとマツダのi-ELOOPを例に解説する。さらに、(2)マイルドハイブリッドについて、スズキの12Vマイルドハイブリッドシステムを例に挙げて説明する。